読子の本棚

読んだ本をここの本棚にしまっておきます。

29冊目:君が降る日 島本理生さん

こんばんは、読子です。

 

ニードルさん・はむちゃんさんとプチ読書会をする本が手元に来るまでに少し時間があったので、もう一冊挟んでみました。

最近パンチ強目の本が多かったので、今回は心の休憩でしっとり島本理生さん。読んだのはこちら、

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「君が降る日」です。タイトルになっている「君が降る日」に加え、他二編が収録されています。

 

 

目次

1.君が降る日 長き夜の章

                      浅き春の章

2.冬の動物園

3.野ばら

 

 

各話あらすじと感想

1.君が降る日

恋人を事故で亡くした志帆の物語。志帆の恋人・降一は、アルバイトの休みに親友の五十嵐と車で出かけて事故死してしまいます。

恋人あるいは親友という大切な存在を亡くしたという近しい境遇にありながらも、事故の生還者である五十嵐に対し、初めはきつくあたってしまう志帆。しかし五十嵐のその人柄や、降一の弟の《仲良くしようムード》に影響を受け、徐々に二人の関係は変わって行くのでした…

 

亡くした人を恋しく思う気持ちと、亡くした人を忘れて行くことと、恋人を喪ったという状況で芽生えた新しい気持ちと向き合うことと…この三つの要素が絶妙なバランスで絡まり合っていて「ああ人生…」と思いました(何)

 

解説で角田光代さんが、

島本理生という作家は静かな文章を書く人だと私は思っている。静かな文章を、緻密に精妙に積み上げていく。読み手はその静けさを、息を潜めて追うわけだが、まったくどう言うわけか読み進むうち、静かさとは異なる、激しく荒々しく、ときには暴力的なほど荒涼とした場所に、連れて行かれることがある。

と仰っていて、本書内三話中「君が降る日」は、まさにこれを強く感じる作品でした。「夜はおしまい」や「ナラタージュ」を読んだ時にも感じたものはこれか…!と強く納得。自分では言語化出来なかった感覚が、角田さんの解説で急に立体感を持ちました。

 

寂しいお話ではあったけれど、主人公たちの人間らしい葛藤に引き込まれていくような美しい作品でした。みんないつか幸せになるんだよ…

あと各章タイトル美しすぎませんか…

 

2.冬の動物園

事務系職の社会人である主人公の美穂は、英会話スクールで男子高校生の森谷くんにちょっかいをかけられます。初めは大人として軽くあしらっていた美穂ですが、徐々に彼のペースに飲まれていって…

 

三話の中で一番読み心地のライト作品でした。失恋したばかりで沈んでいた美穂の心が、森谷くんとの関わりを通して少しずつ軽くなって行くのを見守るストーリーなのでズーン…とせずに安心して読めます。島本理生さんらしいしっとり感はありつつ、重すぎない恋のお話です。君が降る日」で主人公が恋人を亡くしとるから尚のことコントラストがね…!

 

3.野ばら

主人公・佳乃とクラスメイト祐、二人の関係にまつわるお話。祐の兄に恋をした佳乃と、付かず離れずな距離でいつでもそばに居てくれる祐の関係。第三者から見ると不思議な距離感ですが、二人にとってはお互いがかけがえの無い存在で、居心地の良い場所だったのだと思います。

 

男女の友達関係って難しいですよね。自分が最高の友達だと思っていても、相手も全く同じだとは限りませんから。まあそのあたりは同性でもあり得る食い違いではありますが、男女ともなるとどうしても恋に発展する可能性が出てきてしまいますからね…だからこそ儚くて美しいんでしょうか。どちらにせよ青春からかけ離れた年齢になると、もう羨ましくてしょうがないです。

 

作中後半で谷川俊太郎さんの詩の一部が引用されているのですが(それこそが二人の関係をはっきりと表していてネタバレになってしまうので具体的引用や題名の明示はしません)二人の関係と作品自体を一層引き立てるとても素敵な詩でした。一部だけでもこれだけ脆くて美しい青春の儚さが光っているので、いつかきちんと全文読みたいです。

胸がぎゅっと苦しくなるようなお話で、三つのお話の中で一番刺さりました。

 

島本さんの作品は、いつどの作品を手に取ってもしっとりと美しいですね。本作はまたいつか読み返したいなと思う作品でした!本当に素敵〜!!!

 

次は今日手元に届いた読書会の課題本です!

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