読子の本棚

読んだ本をここの本棚にしまっておきます。

48冊目:西洋菓子店 プティ・フール 千早茜さん

こんばんは、読子です。夕方の風が涼しくなり、朝晩に冷える日が出てきましたね。季節の変わり目ですし、風邪に気をつけなければ…!(☜寝相悪くて夜中に布団剥ぐタイプの女)皆様も、どうぞご自愛くださいね。

 

さて今回はTwitterの読了ツイートから。

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「西洋菓子店 プティ・フール」千早茜さん

 

Twitterの読書アカウントでフォローしている方の中に、千早茜さんの強火ファン🔥の方がいらっしゃいます。その方の影響を受けて、とうとう千早茜さんの本を手に取りました。

以前読書ブログ「本好きの秘密基地(管理人:はむちゃんさん)」の記事でも拝見し、いずれ読みたいなとは思っていたのですが、ここ最近で更に読みたい欲が加速。「出会ったタイミングで読みたい本」から「探しに行って早めに読みたい本」に変身し、今に至ります。

 

 

目次

  • グロゼイユ
  • ヴァニーユ
  • カラメル
  • ロゼ
  • ショコラ
  • クレーム

 

 

洋菓子屋「プティ・フール」を舞台にした六話の短編集。オムニバス形式となっています。

 

 

あらすじ

東京下町の商店街、その一角にある素朴な外観のお店「プティ・フール」。静かな佇まいのそのお店は、亜樹の祖父が営む西洋菓子店です。この小さな洋菓子店で、亜樹や祖父を中心に、亜樹の恋人や友人、元同僚、そして常連さんが営む人間模様が、お菓子の儚い甘さと共に展開されていきます。

オムニバス形式の連作で、登場人物は同じながら各話完結で読みやすいです。

 

 

各話あらすじと感想

お菓子って、人間関係って、甘くて儚くて美しい。

 

お菓子の甘さや儚さは、人間関係の持つそれと同じなのですね。

甘く美しいだけでなく、中に潜んだ刺激があるからこそ、お菓子の美味しさや儚さは際立つのだなと思いました。人間関係も同様で、甘いだけではなくほろ苦さを味わう機会も訪れるものですし…ああ、人生…(遠い目)

 

*グロゼイユ*

蠱惑的な魅力を持つ女友達(珠香)と、亜樹さんとの距離感のお話。

依存的な程に感じる距離かと思えば、自分なんて居ても居なくても同じような所まで離れていることもある。そんな振れ幅の大きい距離を、その時々の環境・心境に合わせて近づいたり、遠ざかったりする二人の距離感。

 

グロゼイユはヨーロッパ原産の強い酸味を持つ艶やかな小さな赤い実です。

小粒で可愛らしいグロゼイユの強い酸味は、亜樹さんにとって珠香の愛らしい外見の中に秘められた激しさを象徴するものとして描かれていました。衝動的で激しさを持つ珠香と、落ち着いていて静かな亜樹さんの情動のコントラスト。

 

気づいたら、珠香の白い脚に顔を寄せていた。珠香が大きく息を吐いた。その瞬間、赤い実は震え、かたちを失い、つうっと流れ落ちていった。

という描写から、亜樹さんは自分と対照的な珠香にとても魅力的を感じていたのでしょうね。官能的な文章にドキドキしてしまいました。

 


*ヴァニーユ*

亜樹さんに片想いをする、前職場の後輩くんのお話。メインでフォーカスが当たるのが後輩くん(澄孝)から亜樹さんへの片想いですが、このお話ではもう一つの片思いが並行して語られます。それが、美波(澄孝の学生時代の知り合い)から澄孝への片想い。

つまりこう

美波→澄孝→亜樹♡祐介(恋人)

 

いやしんど🤦‍♀️

美波の好意をわかっていつつ、突っぱねない澄孝よ。おいおまえ。おい、お前!!!

まあその澄孝も一方通行なんですけどね。澄孝も亜樹さんにお菓子を持って行って、またお菓子を持って行って、更にお菓子を持って行っては「お菓子の研究の為に」とお茶に誘います。…躱されまくった上、全く好意に気づかれてないんですけどね!!!

本当に罪な鈍感娘です、亜樹さん。

みんな甘酸っぱすぎてしんどいなあ…

 


*カラメル*

こちらは常連のマダムのお話。

夫の不貞に対する鬱屈を、シュークリームのカスタードに乗せて飲み下すマダム。

振る舞いこそ強かですが、その心は少し力をかければ潰れてしまうシュークリームのように脆い状態です。

 

辛い心に寄り添ってくれるのは洋菓子の甘さだけではありません。時には人生のそれによく似たほろ苦ささえも、食べる人を励ましてくれるのでした。

マダムは苦手なようでしたが、私はプリンの底の苦味のあるカラメルソースが大好き派です。(誰も聞いてない)

 


*ロゼ*

亜樹さんに片想いをする澄孝…に片想いをする女の子のお話。ヴァニーユで登場したネイリストの美波ちゃん目線のお話ですね。

 

気持ちが相手に伝わっている片想いなのに実らないもどかしさと、美波ちゃんの腐らない姿勢がとても好きでした。読子的に一番お気に入りのお話です。

自分を持っている女の子って素敵よね。

 

 

恋敵である亜樹さんのお菓子を食べた時の

「夢みたいにいい香りです。世界に色が付くみたい。うっとりします。」

という美波ちゃんの表現からは、お菓子を口に含んだ事でいかに華やかな香りに包まれたのかが手に取るように伝わってきます。美波ちゃんの豊かな表現に、私もつられてうっとりしてしまいました。

恋敵の作るお菓子の美味しさを素直に認められる美波ちゃん、この子の性格やっぱり好きだなあ。

 

収録されている六話の中で一番刺さったお話でした!

 


*ショコラ*

亜樹さんの恋人・祐介が、亜樹さんとの関係に悩むお話。祐介のショコラのようにどろどろとした感情と、二人の未来に関するお話です。

関係を終わらせたいわけではないのに、亜樹さんへの嫉妬心でモヤモヤしている今、このままでは前に進むことができない…。そんな状況に置かれた気弱な祐介が、一大決心をして大勝負に出ます。

 

祐介の亜樹さんへの嫉妬心(置かれた環境や慕ってくれる後輩がいること、仕事への情熱などに対して)、正直わかるなあ。私もきっと、近しい立場だったら羨ましいなって思っちゃうだろうなあ…

 

 

*クレーム*

亜樹さんのお仕事の今後と祖父の話。前話「ショコラ」で決着が付かずフワッと終わった祐介との関係もこのお話で着地します。

 

このお話で出てくる、亜樹さんの作る洋菓子を卸している紅茶店店主・長岡さんの言葉

「結婚できるって幸せなことだよ。法が愛を守ってくれて家族になれる。当たり前の選択肢だと思っているのかもしれないけど、誰もが選べるわけじゃない。」

には、結婚を迷う読者の多くがハッとさせられたのではないでしょうか?

これは長岡さんの置かれた立場だからこそ出てくる言葉なのですが(長岡さんの詳細な部分については是非本書で…!イケおじです🫶)、本当にそうだな、と。私自身、亜樹さん同様結婚のありがたみに気づかず結婚前にしっかりマリッジブルーしてましたからね(隙自語)。今思えばなんであんなに悩んだのかもよくわかりませんが。

 

結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私は、あなたと結婚したいのです。

というゼクシィのキャッチコピーが生まれる時代です。結婚できた幸福にもっと感謝しなければならないなと感じました。

 

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全編ひっくるめて、人生の甘い苦いがギュッと凝縮された一冊でした。本当に人の数だけ悩みがあるんですね。素敵な作品でした。千早茜さんもっと読みたい…!