読子の本棚

読んだ本をここの本棚にしまっておきます。

61冊目:宝の山 水生大海さん

こんばんは、読子です。

天気予報で桜前線の話題が登場するようになってきましたね。春はもうすぐそこ。お花見が待ち遠しいです!!

 

 

 

さて今回は

「第三回 屋根裏の内緒話〜!!」

この読書会記録は、「郵便局のおじさんは9時40分ごろやってくる」のニードルさんとの読書会に関する記事です。

 

 

今回の選書はニードルさん!

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「宝の山」水生大海さん

 

薄暗い桜の森に、ショッキングピンクの花が舞い散る妖しいデザインの表紙です。さてはこの本、「金銀財宝!」みたいなタイプからは程遠い感じなんでしょうね。

 

 

目次

  • 序章
  • 第一章 いっぺん村八分にしたら、反省もするわ
  • 第二章 そうね、誤認させるのよ
  • 第三章 わかったつもりでジャッジするなよな
  • 第四章 村の一員だから、余計なことは言うなと
  • 第五章 真実を知らないと、力のある人にいいようにされてしまう
  • 第六章 父がいなくなった日と同じだ
  • 第七章 餌を投げたんだ。釣り針のついた餌をね
  • 第八章 自分の罪を自覚した方がいいだろう
  • 終章

不穏すぎるセクションタイトルに、読む前からゾワり。これは絶対穏やかな話じゃないぞ!

 

 

あらすじ

宝幢温泉を抱える宝幢村は、その温泉を中心に一時期は観光地としての賑わいを見せていました。しかし大きな地震により、村の宝とも言える宝幢温泉は埋まってしまい、再度掘り返すことも出来ませんでした。衰退の一途を辿る宝幢村は村おこしの為に、桜の森を作る事を考えます。外部からPRをしてくれる人材も雇い村おこしに注力をするのですが、そんな側からPR大使の女性が失踪してしまい…

 

 

感想

ニードルさんの選書、毎回センスエグいんですよね…閉鎖的な村のヤバい話かと思ったら、途中からガッツリミステリーに。かなり好きな展開でした。

 

しかしまあ…閉鎖的な村って怖いですよね。実際私の祖父母の田舎は、我々が遊びに行くとヒソヒソしてくる系だったりします(「〇〇さんとこの孫が帰って来てる」系の噂)。本書のストーリーでもバチバチに相互監視をしていたので、いや限界田舎コワ…とか思ってたんですけど、まさか途中からミステリーエンジンが全開でかかるとは!!!(ドゥルンドゥルン

その一方で、新規移住者を余所者扱いしたり、村八分にしたり、村の利益の為に暗黙の了解で秘密を守ったり、「誰々さんのところに嫁ぐのは名誉」みたいな感性だったり…と、そういったいわゆる村社会的なムードは最後まで維持しており、突然別のジャンルにすり替わった感じはしませんでした。

 

 

ところで、主人公・希子ちゃんの伯母の

  • 村の権力者の親族と結婚できるのはありがたいこと
  • お前がいつまでも体を許さないから
  • 縁談が流れそうならその男の子供を妊娠してしまえ
  • 男の浮気には目を瞑るものだ

などの発言が酷すぎて、こんなの放り出して早く村を出ればいいのに!って思ったのは内緒。他にも移住者の家を覗いたり、荷物の中身を気にして他所の宅配物の代理受け取りをしたがったり(宅配ボックス置かれたらブチギレ)、噂ばなし大好きだったり、本当に監視力高めで嫌な村人の見本みたいでした。これが親戚なの恥ずかしすぎて、希子ちゃんには同情…あまりにも常識はずれで、ハラスメントのオンパレードやないかい。

そんな伯母さんに対しても強く反発しない主人公の希子ちゃん。きっと希子ちゃんも長い時間をかけて村民としての処世術というか、そういう生き方を叩き込まれたんでしょうね(洗脳的に)。後に希子ちゃんは少しずつ目を覚ますので、その辺りはにホッとしました…

 

ミステリーでありつつ、閉鎖的な村で育った希子ちゃんの成長ストーリーでもあって読み応えのある作品でした!不穏な村でのお話が読みたい方におすすめです◎本作で初めて水生さんの作品に触れましたが、他の作品も読んでみたくなりました。

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ニードルさん、今回もナイス選書でした!ありがとうございます!!

 

 

60冊目:#真相をお話しします 結城真一郎

こんばんは、読子です。

はるですね。

目がしょぼしょぼしますし、鼻水も止まりません。こんな形で春の到来を感じるなど、なんとも不本意だなあ…なんて毎年思っています。

 

さて今回の本は、はむちゃんさんの本読みブログ「本好きの秘密基地」で紹介されていた本です。インパクトの強すぎる表紙で、ずっとずっと気になっていました。チョモランマというギラッギラしたキラキラネームの登場人物が出てくるそうです。なんだそれは…

 

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「#真相をお話しします」結城真一郎さん

 

 

目次

  • 惨者面談
  • ヤリモク
  • パンドラ
  • 三角奸計
  • #拡散希望

 

 

あらすじ

家庭教師の営業中に遭遇した不審な出来事をめぐる真相、マッチングアプリの出会いにまつわる真相、遺伝子の提供と血縁にまつわる真相、オンライン飲みで発生したトラブルの真相、そして離島で暮らす渡辺珠穆朗瑪(ワタナベ チョモランマ)がたどり着いてしまったYouTuberの真相。

それぞれの主人公が真相に辿り着くまでの、五つのトリッキーなミステリー短編集。

 

 

各話感想

(Twitterの読書界隈で)みんな騒いでるな〜って思っていましたが、確かにこれは面白い!

少年の顔の上に目線の如く走るタイトルで、とてもパンチの効いている表紙です。表紙も目を引くことながら、内容も引けを取らないくらい刺激的!では一話ずついきましょう↓

 

 

✩惨者面談✩

家庭教師の営業がお試し授業で入った家庭が、とても歪だった…というお話しです。

第一話目から飛ばしてて、「おぉ…」「えぇ…?!」と驚きの声を溢し続けました(※1人で読んでます)

初めにちょろっと出てきた内容が後に続く伏線で、短い1話の中で怒涛の伏線回収が行われておりました。凄いな…もしかして全部このペースで行く感じ?…と思っていたら、実際に一話目から五話目まで全話でバッと伏線散らして最後にガッと回収してくれる全力回収だったので、散らしたパン屑を綺麗に回収するヘンゼルとグレーテルを見た気持ちになりましたね…これおうちに帰れるじゃん。

で。読んだ方ならわかるこの感想

「お前もここの人間じゃないのかよ…!!!!」

いやでも機転効くな、凄いなって思っちゃったわよ。いいことに使いなさいね、その頭の回転の速さ。


✩ヤリモク✩

娘がパパ活をしているのでは?と疑惑を抱えたお父さんのお話し。

や、わかる。お父さんの気持ちもわかる…けど娘がそういうことするのを咎める気持ちがあるならね、あなたもしっかりしなさいね。

…って思ってたらしっかりしろとかそう言う次元じゃなかった。きょうき!!!!!おちつけ!!!


✩パンドラ✩

血縁の話ってデリケートな話よね。知る権利はあるけど、知らない方がいい事もあるって話。

うっかり開けちゃったかあ…いやまあそうね。繋がっちゃったのよね。回避困難な感じだったもんね。自動で開いちゃったパンドラの箱って感じだったなあ。

 
✩三角奸計✩

オンライン飲み会で試される、男同士の友情の話。

これね、はむちゃんさんが「奸計」って謀り事の事を言うんだよってブログで書いてて、その時は「へえぇ、勉強になったなあ」とか呑気な反応してたけど、実際に読んでみたら仲間内でとんでもない計略に嵌められててオウフ…ってなったよ…

下手なホラーより怖かったです…


✩#拡散希望

満を持して登場! 渡辺珠穆朗瑪(ワタナベ チョモランマ)!本当に出てきた!!!あなたそんな字を書くのね。このお話は、今時流行りの(?)YouTuberにまつわるお話。

ちょも…お前、ちょも〜〜〜!君YouTuberなんて目指さずに探偵さん目指した方がいいよ。そっちの方が向いてるって…

チョモランマが最後に怒涛の名推理をかますので、それはなんとも見ものなのですが、まさかその後にあんな狂気的な行動に出るとは…最後まで気を抜けないお話しでした!

 

 

全編通して伏線のばら撒き方・回収の仕方が華麗すぎました!短編集なのに一話一話がこの満足感。全ての真相に悉く驚かされ、読み応えたっぷりの一冊でした。最後の最後に全部ひっくり返る感じは、とても爽快!話題にもなる訳です。

たくさん翻弄させられたなあ…

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59冊目:おいしいごはんが食べられますように 高瀬隼子さん

こんばんは、読子です。

今週は寒暖差が凄いですね。急に2月を思い出したかのような寒さで驚きます。皆さまお風邪など召されぬようご自愛くださいね。

 

 

さて、では今回の記事!

 

「第二回 屋根裏の内緒話〜!」

今回も「郵便局のおじさんは9時40分ごろやってくる」のニードルさんとの読書会記事です。(ソロ読書は長〜いシリーズものを読んでいるので、ちょっとお休みです。)

 

 

今回の課題図書は私の選書!

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「おいしいごはんが食べられますように」高瀬隼子さん

 

芥川賞受賞作品です。川上未映子さんの「乳と卵」を読んで「芥川賞系は合わないんだよな〜〜〜〜」とか言いましたが、前言撤回。夜遅くにNHKで放送していた番組で本書の内容が一部取り上げられており、その番組を見てからずっと気になっていました。

 

 

あらすじ

自分が嫌な仕事はしない、体調が悪くなればさっさと早退、みんなが残業していようと自分は定時退社…そんな風に振る舞うことが周囲に許される芦谷さんと、自分の仕事はきっちりと!な押尾さん、その間で不思議な空気感でのらりくらりする芦川さんの恋人・二谷の関係を、食を通して見ていくお話です。

 

 

感想

正直押尾さんの気持ちがすごく良くわかる。

自分たちだって我慢してるのに「〇〇さんは仕方ない」ってその人だけ許されるの、納得いかないよねえ。でも「自分もそうなりたいのか」って聞かれるとそれはちょっと違うってところも併せてわかるって感じ。

 

「みなさんが残業頑張ってるところ帰らせていただいたので、私はお家でお礼にお菓子作ってきました〜✿」なんて普通に考えて煽りティ高すぎると思うし、それが習慣化した結果周りのスタッフが「いつもお菓子作ってきてもらってるから、材料費出そう」みたいなこと言い出す流れはグロささえあるな、なんて思いました。

 

あのね、お菓子作り頼んでねえのよ!

家帰ってお菓子作れる元気あるなら、普通に仕事してよって思っちゃうよ?!!

 

 

っていうのが正論。

善意なのはわかるけど、勝手にお菓子出されて勝手にお金取られるの謎すぎんか?これがお付き合いなんだろうけれども、残務まで押し付けられているのにその間に楽しくクッキングしたお料理を食べさせられてしかもお金払わせられるの地獄すぎる。

でも他人にお仕事を強要できないのもわかる。(というか大半の人はこっちのタイプが多いんじゃないか?)は「元気ないから帰ろ」とか「みんなが残業してても私は帰ります」ができない押尾さんタイプなので(でも押尾さんみたいに仕事のできる女じゃない)、押尾さんの気持ちがとてもわかってしまう。

芦川さんサイドで語られることが無いからどうしても押尾さんに感情移入しちゃうのもあると思うけど。

 

きっと芦川さんみたいな人も押尾さんみたいな人も、二谷みたいな人もよくいるタイプの人間。それで、こういうの、職場や学校でよくある話なんだろうなあと思う。周りの人がその人の希望とかを汲んで守ってくれる空気で、その皺寄せは全然別の人のところに行って、みたいなの、きっととてもよくある事。当然芦川さんタイプの人がこの話を読んだら「いや、じゃあ押尾さんアンタも帰って好きなことすれば良いじゃん」という感想を持つとは思うんだけど、それはちょっと違うんだ〜〜〜〜〜

同じことをしても、同じ事を言っても「それが許される人」と「それが許されない人」がいるの。なんでか知らんけど。悔しいけど。

 

押尾さんが負けて芦川さんが勝った。正しいか正しくないかの勝負に見せかけた、強いか、弱いかを比べる戦いだった。当然、弱い方が勝った。そんなのは当たり前だった。

って二谷のモノローグにもあったけど、こういうのは実際に「守られるべき人」と「守られない人」の戦いで、そう言う場合は当然「守られる人=弱い人」が勝つって相場が決まってる。謎だけど、真理。

 

芦川さんも押尾さんも、二谷もよくいる人。その周りにいる原田さんや藤さんも良くいる人だった。だからこそ自分の中で“こういうタイプの人”としてある程度の解像度があるから、押尾さん目線で見る芦川さんも藤さんも原田さんもみんなモヤモヤする存在だったんじゃないかと思う。

 

 

「おいしい(健康的な)ご飯の強要は攻撃」という二谷の感覚があまりよくわからない、という意見もありましたが(ネットで見た感想)、これは今回が【ごはん】であっただけで、もっと広く見れば【その人が良しとする事】の強要なので繰り返されれば攻撃にもなるのかなって二谷の気持ちもなんとなく察しがつきました。いわゆる押し付けだもんね。

でもそんなにも食への価値観が違ってる芦川さんと結婚すんのォ?!!とは思った。大丈夫か二谷…

 

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高瀬隼子さんの文章、好きだなあと思ったので「犬のかたちをしているもの」「水たまりで息をする」もいつか読んでみたいと思います◎

58冊目:ワンダフル・ライフ 丸山正樹さん

こんばんは、読子です。

今回は読書会の記事です。

 

…とは言っても、いつものメンバーな「本好きの秘密基地」のはむちゃんさんがお休みに入りましたので、一旦3人読書会はおやすみ。ここからは「郵便局のおじさんは9時40分ごろやってくる」のニードルさんとのサシ読書会が始まります!

 

 

 

題して

「第一回 屋根裏の内緒話〜!」

※勝手に題すな

ニードルさんと実際に読書会をしたらどんな感じになるのかな?夜遅くにおすすめの本を持ち寄って、屋根裏で夜ふかし読書会かな…?なんて想像から勝手にタイトルを設けました。

※別案あればそっちにしましょうね!

 

 

 

では第一回目の課題本です。

選書はニードルさん。

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「ワンダフル・ライフ」丸山正樹

 

 

目次

  • 無力の王(1)
  • 真昼の月(1)
  • 不肖の子(1)
  • 仮面の恋(1)
  • 無力の王(2)
  • 真昼の月(2)
  • 不肖の子(2)
  • 仮面の恋(2)
  • 無力の王(3)
  • 真昼の月(3)
  • 不肖の子(3)
  • 仮面の恋(3)
  • エンドロール
  • 年譜
  • あとがき

4つの章を少しずつ順繰りに読んでいく構成となっています。

 

 

あらすじ

✩無力の王(1)(2)(3)

介護者たる「わたし」と、被介護者である「妻」の話。介護者側の気持ちが一番ダイレクトに記されてるのがこの章。被介護者の気持ちもまた、鋭く刺さるような文章で綴られています。

 

真昼の月(1)(2)(3)

子供のいない夫婦、摂と一志の話。「生まれてくる子供の障害とその親」という切り口から、“いのち”を考えさせられます。一年間という期限を決めて妊活に励む二人ですが…

 

✩不肖の子(1)(2)(3)

私(岩田)と不倫相手の洋治と、脳卒中で倒れた不倫相手の父親(誠治)と…そして岩田に恋心を寄せる国枝の話。

主人公の「私」は職場の上司と不倫の関係。始めは自分を優先していたはずなのに、父が脳梗塞で倒れたことを理由に徐々に私と距離を取ろうとする洋治の態度に納得がいきません。そして私は洋治に聞き出した病院の一室を訪れ…

 

✩仮面の恋(1)(2)(3)

〈テルテル〉こと照本俊治と、女子大生〈GANCO〉、そして有償介護ボランティアの祐太の話。介護経験者の〈テルテル〉として、オンライン上で〈GANCO〉と交流を持っていた照本。その実、照本は脳性麻痺のため被介護者として祐太をはじめ介護スタッフにケアを受けています。最初こそ文章での交流をしていましたが、いずれ照本はGANCOと写真を交換し、直接顔を合わせることになります。そしてGANCOの前に現れた照本は、一時的に祐太と名前を交換し、祐太をテルテルとして振舞わせ、自身を祐太としますが…

 

 

感想

“がい”を平仮名や碍にしなければ失礼だというのは考えすぎと言うか、そんなことを思いつくこと自体が失礼では…?と思う派なので、本記事での表記は本書文中表記に合わせて「障害」としております。そもそも「障害」は“その人が”という意味ではなく、“その人にとっての社会が”ということだと理解しておりますので…車椅子に優しくない段差とか、点字や音声案内の無い施設とか、そういうことだと思っております。他意はございませんのでご承知おきいただけますと幸いです。

「表記を気にして欲しい」という当事者の方々たっての希望である可能性を考慮し、念のため「障害」の表記について調べましたが、「害」という漢字に負の印象があることから一部の地方自治体や企業が自らの判断で「障がい」と表記し始めたのが起源だそうです。国としての正式な見解は出ていませんが、政府発行書類などでは、常用漢字の「害」を使った「障害」が使用されているようです。(勉強になりました!)

 

 

 

では本編感想に入ります。

⚠︎以下ドえらいネタバレをします!⚠︎

 

 

 

 

 

 

この構成本当にすごい!!!

2回読みたくなる本ですね、これは。

途中までそれぞれ別の人間の人生のように書かれているのに、最後に同一人物の過去から現在であることが明かされて本当に驚きました…!!(もちろん私は2周目いきました)

 

最後に「…そんな別の未来もあったとしたら」というif的な内容が短く書かれていますが、殆ど間を置かずに現実がぶつけられます。なんとも非情…テルテルのメールにGANCOからメールが返ってこないのもまたリアルだなと思いました。一瞬GANCOが頸髄損傷したから…?とも思いましたが、時系列的にまだそこには到達していないでしょうし…

 

 

「無力の王」パートでは、介護者と被介護者のそれぞれの思いを知ることとなります。特に被介護者である「私」から

「『仕事』っていうのは、別に対価をもらってすることに限らないの。したくないけどしなければならないからする、それを『仕事』って言うの」

という台詞が出てくるのですが、これは全くもってそう。本当に、そう。

介護者側だって仕事としてしているかもしれないけれど、被介護者だって「介護されたい」と思ってされているとは限らないものね…(されたいと思っている人は少数派でしょうし、自分でできるなら自分でしたいですよね。人間の尊厳ってそういうところで築かれていくものだしね)改めて当たり前のことに気付かされるフレーズでした。

また、「私」の横柄な振る舞いに関しては

「私がその言葉(ありがとう)を使わなかったおかげで、あなたは私を憎むことができた。そして今、私を捨てることができる。そうでしょう?」

という台詞と共に出された施設入所の申請用紙から、彼女のプライドと不器用な優しさが垣間見えました。誰だって一番大切な人生の伴侶に辛い思いなんてさせたくないですものね。夫の優しさを理解している「私」だったからこそ、徹底した横柄さで夫に辛く当たり、(施設に入れる判断で)心が揺れないようにしていたのだと思います。

もちろんそういった思いやりもあったことでしょう。でも、それ以上に彼女のプライドの限界だったのだと思います。

「仮面の恋」の序盤で「障害者はいつだって介護者に感謝をしていなければいけない?それって感謝の押し付けでは?」と言った彼女の価値観をはじめ、最後の年譜で明かされる夫の不倫や、大切な夫に介護を強いる(そして自身が介護される)苦痛。ここから想像するに、「私」のプライドはきっとズタズタです。尊厳を守り抜くための行動であったことが、優しい夫に伝わりきっていないのがなんとも切ないですね…

 

 

それからもう一つ。「不肖の子」パートで、入院中の不倫相手の父(誠治)が意識不明の状態で登場するのですが、「私(岩田)」からの誠治への関わり方について、やはり思うところがありました。(看護師的に)

私には脳卒中センターで勤務していた時期があり、まさに誠治のような病状の方に接する機会もありました。読んでいて、そんなあの頃のことを思い出さずにはいられませんでした(隙自語りですが自ブログなので許してください)

当たり前の話ですが、患者さんの意識がはっきりとしていなくても、ケアに入る時には当然聞こえているつもりで関わります。でも「〇〇しますね」「気持ちいいですね」「ご家族さんがいらっしゃいましたよ」とか、そういった当たり前の会話ではなく…、もっと岩田のしたような「今日はいいお天気ですよ」「今朝はこんなニュースがあったんです」「〇〇が咲きましたよ、春ですね」「年が明けましたね」なんて気の利いた雑談の一つでも出来たらよかったのに…と、今ならそう思います。思い返せば、開眼したり僅かでも反応のある患者さんにはしていた雑談を、意識のない患者さんにはあまりしていませんでした。おかしな話ですよね。同じ患者さんなのに。

きっと聞こえているつもりで接してはいるものの、一方通行な会話に、心のどこかで【聞こえていないのかもしれない】という諦観に似た思いがあったのだと思います。本当によくないですね。

脳卒中の病棟を離れて数年経ちましたが、今でもこの手の話題に触れると、この頃を思い出しては己の未熟さを反省します。

 

真昼の月」パートでは、『排除アート』という言葉に初めて触れました。

《誰にでも優しい社会を》という思想と逆行する存在ですねこれは…ネットでも調べてみましたが、街中で見かけるような「おしゃれな椅子」や「おしゃれなオブジェ」だと思っていたそれが、まさに排除アートと呼ばれる存在だったとは。

【ここから読子のグチャグチャ思考タイム☞】でもこれを考えるには、まずホームレスを是とするか否か的な難しい話から考えなければならなくて、でもホームレス以外にも排除アートで困ってしまう方も出てきてしまうという問題点もあるし、というかそもそも排除アートも「街中の環境(治安)を良くしよう」という思想からスタートしているのであろうし、でもその「良く」って誰にとって…?って話にもなるし、あああ…(頭がパンクする音)

 

難しいですね。簡単に答えは出ないし(そもそも正解なんて無いだろうし)、私が考えたところで何も出来はしないけれど、考えることを放棄するのはしたくないなと思いました。

 

あまり考え過ぎずに心で読んでも良い本なのでしょうけれど、たくさんたくさん考えさせられる内容で、なんだか…なんだかこの本とても好き(←考えるの好きな人)現実の非情さがあるのに、そこから目を離せなくなるようなグッと惹きつけられる本でした。

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ニードルさん、素敵な選書ありがとうございました!良い本との出会いでした😭✨

57冊目:近畿地方のある場所について 背筋さん

こんばんは、読子です。

当ブログ記事を見つけてくださってありがとうございます。

 

 

今回はこれ!

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近畿地方のあるばしょについて」背筋さん

 

読書アカ界隈がざわついてたやつです。

カクヨムで人気を誇っていたホラー作品が書籍化した作品。最近は漫画化もされたようですね…。本当にすごい人気…!

ちなみに初版には怖いシールが付いていたようです。読子が手にしたのは初版ではございませんが、一周回って(?)欲しかったです。(何に使うの…?)

 

積読していて早く読みたい早く読みたいと思っておりましたが、ようやくその時が来ました!(ホラー苦手な癖にね)怖いのは苦手なんですけれど、興味はとても惹かれてしまうのです。いわゆる怖いもの見たさってやつですね。

 

 

あらすじ

「情報をお持ちの方はご連絡ください。」

出版社に就職し、ホラーMOOKにて記事を担当できることが決まった小沢くん。近畿地方のある場所について情報収集をしている間に、彼は失踪をしてしまいました。背筋さんが彼の足跡を辿るように、小沢くんが“近畿地方のある場所について”調査した記録を追跡していきます。

 

 

感想

おい!!とても怖いじゃないかよ!!!(全ギレ)

 

最初は「なにこれw柿もありますwww(半笑い)」と、「このくらいなら読めるわ」くらいの軽い気持ちで読み始めました。が…序盤は不気味で気持ち悪い程度だったものが、読み進めれば読み進めるほど恐怖が加速。半分ほど読んだ頃に、とんでもない本に手を出してしまったことに気がつきました。

 

「おーい」という山からの誘い、赤い服の女、謎のシール、ダム、バラバラの情報が統合されていくことで見えてくる怪異の姿。読者は小沢くんが残した近畿地方のある場所●●●●●(伏字)”に関する資料を追いかけていくのですが、それが過去の雑誌記事によるものだったり、いわゆる2chのような掲示板だったり、インタビューの文字起こしだったりとバラエティに富んでいて、実際に目の前に資料を提示されているような気持ちになります。そして袋とじ付きなのですが、そこには写真資料も添付されていて…

和製ホラーらしいジトっとした気持ち悪さがずっと付き纏い、途中からは夫に背中をくっつけて読みました。(ホラー読む時背後が気になっちゃう人)

 

あ〜、夜中にトイレ起きるの怖い………

 

 

 

皆さん読了後は、しばらくこれが口癖になるんじゃないですか?

 

「お山に来ませんか、柿もあります。」

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56冊目:血も涙もある 山田詠美さん

こんばんは、読子です。

前回に続き、今回も読書会の記事です。

 

第三回

本の虫たちの読書会〜!!!!

 

こちらは

 

  • 「本好きの秘密基地」のはむちゃん様
  • 「郵便局のおじさんは9時40分ごろやってくる」のニードル様

のお二人と、3人での読書会です。

 

 

今回の選書ははむちゃんさん!!

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「血も涙もある」山田詠美さん

学生時代に課題読書の「僕は勉強ができない」で一度だけ手に取ったことのある作家さんです。あまりよく覚えてはいないのですが、結構真理っぽいことが書いてあり高校生ながらに「オッフ…」となった記憶があるような無いような。

今回の読書会は、そんな山田詠美さん作品との邂逅チャンスとなりました。

 

 

目次

Chapter1 lover

Chapter2 wife

Chapter3 husband

Chapter4 lover

Chapter5 wife

Chapter6 husband

Chapter7 lover

Chapter8 wife

Chapter9 husband

Chapter10 people around the people

 

 

あらすじ

「私の趣味は人の夫を寝盗ることです」から始まる不倫群像劇。寝盗りが趣味な桃子、料理研究家の沢口喜久江先生、そして沢口先生の夫・太郎(キタロー)。男女の間柄や不倫に対する価値観が、三者の視点で順繰りに描かれます。

 

 

感想

揃いも揃って碌でもねえな!

でもみんな揃って人間臭いな、と思いました。

「何を悪として、何を善として…」と、一つの価値観をベースに描かれている訳ではないので、読み手の立場によって誰に感情移入するかが変わると思います。…し、どの立場で読むかによって作品を読んだ感想も随分変わってくるんじゃないかと思います。

 

既婚子持ちになってくると恋愛方面の価値観は随分凝り固まってくるので、「罪悪感なく他人の夫に手を出す」という桃子の感覚にドン引きしてしまうような頭になっていることに気がつきました。(フィクションなんだからもっとソフトな思考で読もうな読子)

 

世の中には「不倫であっても純愛だ」という価値観もありますので、あくまで私の価値観ですが、これっぽっちも悪びれる様子なく職場の先輩の夫を寝盗るのはちょっと…

桃子のように

考えてみると、妻、可哀想。私のために、夫を下ごしらえして差し出し、散々調理され、あらかた食い尽くされた残りを受け取るのだ。

みたいな考え方に暴露するとストレスで胃がひっくり返りそうになります。それだけでもメンタルに強く来るのに、妻帯者でありながら

桃子を愛でている間、喜久江の残像は、よっこらしょっと衝立の陰に移動させておく。そうさ、俺は稀代のちゃっかり屋さんさ!と大した罪の意識もなく開き直ってるのです。ひでえ。でもよその女にうつつを抜かしている既婚者の男って、こんなもんじゃないですか。あっ、ちょ、ちょっと、今だけは目をつぶってちょうだいよっ、後、少しなんだから、と。

などと、法に触れる事をしているにも拘らず、全く緊張感のない夫にも心底げんなりしました。

 

それぞれが「自分の倫理観に則り、マイルールの中で不倫をしている」テイですが、各々が自分に酔い過ぎてて登場人物全員気持ち悪かったです。(暴言)

 

 

起きている事実だけを掬うとドロドロストーリーですが、山田詠美さんの描くキャラクターの語り口のせいか、内容の割に不思議と軽快な印象でした。

これだけの内容をこんなに軽く書ける山田詠美さん、すごいです。

 

 

でも一個だけ言わせてくれ。

不倫する奴は普通に血も涙もないと思う!!!!

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学生時代ぶりの山田詠美さん。久しぶりの挑戦でとても嫌な気持ちになれました!(歓喜)(謎の爽快感)

 

やっぱり嫌な気持ちになるのって気持ちいい(?)!でも現実世界ではご勘弁なので、本の世界だけにしてくださいね。

 

はむちゃんさん、素敵な選書ありがとうございました!

【この本よかった!】読子的2023年の本

こんばんは、読子です。まもなく今年も終わりがやって来ますね。

 

2023年、いろいろな事がありました。赤ちゃんができてからはてんやわんやで、正直ブログを辞めようかなと思ったこともありました。でもこれが無くなったら、私は本当に趣味と呼べる趣味を失ってしまう…そんな思いで、どうにかこうにか産後も続けてきたこのブログ。来年も大切にしていきたいと思います。細く長くね。

さて2023年の間では、33冊の本に出会いました。遅読ゆえに読めた本自体はあまり多くありませんが、その中でも印象に残っているというかお気に入りというか、そんな本について改めて振り返ってみたいと思います。

 

 

◎2023年の3冊◎

  • 「BUTTER」柚木麻子さん
  • 「あひる」今村夏子さん
  • 「傲慢と善良」辻村深月さん

 

イヤミスが好きで、「イヤミスの女王・真梨幸子さんこそ至高!」と豪語している人間らしからぬ選書に、我ながら驚きました。真梨さんが入っていないだと。でもそれなりにイヤな気持ちになったんだろうなあというラインナップなのは己の好みの垣間見えるところです。

 

 

それでは1冊ずつ。

✩「BUTTER」柚木麻子さん✩

とても美味しそうな本でした。つわりになる前に読み始めたものの、あまりの濃厚さにつわりが終わるまで一度読むのを諦めた本です。写真でもなければ映像でもない。なのに文面から香りや温度の立つ感じが伝わる不思議な一冊。

バター醤油のご飯、たらことバターのパスタ、じゃがバター…ありとあらゆるバターの料理が食べたくなって、つわり明けにたくさんバターを食べました(不良妊婦)。体重増えすぎてお医者さんに怒られました…

美味しそうなお話ではありますが、柚木さんらしい不穏さもしっかりと。ルッキズム的な考えとの付き合い方や、自分らしく生きることについても考えさせられるお話でした。

 

✩「あひる」今村夏子さん✩

機能不全家族!親もおかしければ語りの主人公もおかしい。近所のお子さんたちも、その親も、もれなく皆おかしい。登場人物全員おかしいのに、何一つ違和感にはクローズアップされず、おかしいことは一切無いかのようにストーリーが進んでいきます。

あひるの「のりたま」、みんなのアイドルでした。


✩「傲慢と善良」辻村深月さん✩

辻村深月さんの描く人間模様、とてもリアルでとても苦しくて大好きです。主人公やヒロインの傲慢さ、主人公の女友達の傲慢さ、ヒロインのお母さんの傲慢さ、登場人物のあらゆる姿を通して、読者たる自分の傲慢さが見えてくる…そんな作品でした。

一応「婚約中のヒロインが突然姿を消す」といったミステリ要素はあるのですが、やはり辻村深月さんは心情描写や人間模様の描写に読み応えを感じます。たくさん嫌な気持ちにさせていただきました(嬉々)。

 

何年か前から薄々感じてはいたのですが、イヤミス好きになってから女性作家さんばかり読むようになりました。やはり女性作家さん視点の“イヤ”の解像度の高さが私にはよく刺さるようですね。

 

来年はどんな本に出会えるのかな。楽しみです。子どもの離乳食や夜泣きも始まり一層忙しくなりそうですが、来年ものんびりマイペースに本を読んでいけたらと思います。

 

 

【ちょっと個人宛て】

✩はむちゃんさん、ニードルさん

今年もたくさんお話ししてくださってありがとうございます🙇‍♀️お二人とのお話しは私にとってとても刺激になりました!来年もまた、お二人と読書会ができるのを楽しみにしています。

✩ゆきさん

今年出会ったゆきさん。読んだ本数こそ少ないですが、私も辻村深月さんが大好きです!ゆきさんの辻村本レビュー、いつもうんうん頷きながら読んでます!今後ともよろしくお願い致します🙌

 

 

本年は大変お世話になりました。皆様の2024年が素敵な一年となりますようお祈り申し上げます。また来年度もどうぞ宜しくお願い致します。