読子の本棚

読んだ本をここの本棚にしまっておきます。

42冊目:あひる 今村夏子さん

 

こんばんは、読子です。

救急車でピーポーしてから、かれこれ2ヶ月以上の入院となって参りました。メンタルもそれなりにまいって参りました(変な日本語)。

早く退院したいなあ…夏ってどんなだっけ?弱音吐いてる場合じゃ無いんですけどね。頑張らなきゃ

 

 

…気を取り直して本のお話!

 

以前「むらさきのスカートの女」で沼を覗き込んでしまった今村夏子さん“変な女”が“別の変な女”にお近づきになりたくて、ストーカーの如く追いかけるという独特のストーリーだったあの作品…

 

 

あれを読んだ際に「郵便局のおじさんは9時40分ごろやってくる」のニードルさんにおすすめをいただきました。

 

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「あひる」今村夏子さん

 

 

再び没入したかったあの独特な世界…

本作を読んで改めて痛感したのですが、今村夏子さんの描く“変なやつ”は魅力的すぎる。

今回も異常者ばかりのご登場でした(言い過ぎ)

 

 

 

 

目次

 

 

あらすじ

  • あひる

主人公であるわたしの家に、父の同僚から譲り受けた一匹の“あひる”がやってきました。その名も「のりたま」。のりたまがきてからというもの、愛らしいその生物に会いに多くの子ども達が主人公の家を訪れるようになりました。

しかしそんな穏やかな日々は続かず、のりたまは体調不良に陥り元気を無くします。医者に連れて行かれたのりたまは数日後に帰ってくるのですが、なんだか様子がおかしくて…?

 

 

  • おばあちゃんの家

主人公・みのりと、同じ敷地内の別邸「インキョ」に住むおばあちゃんのお話。みのりとおばあちゃんは血縁関係はありません。みのりはインキョに遊びに行くのが大好きなのですが、みのりの母はそれを快く思っておりませんでした。

ある日みのりの弟が「おばあちゃんが一人で喋っている!」と騒ぎ始めた事をきっかけに、おばあちゃんに認知症の疑惑がかかります。

お母さんはおばあちゃんが徘徊などをしないように、インキョに錠をしたりつっかえ棒をして引き戸を開かないようにしたりと、あの手この手を施すのですが…

 

 

はじまりは、モリオとモリコの兄妹が他人の敷地内に入り込み枇杷をもいで食べたことがきっかけでした。

枇杷をもぐ兄妹は、敷地の主であろう老婆に家の中から「ぼっちゃん…ぼっちゃん…」と声をかけられます。初めは罪悪感から逃走する兄妹でしたが、ある日モリオが老婆と接触を試みると、咎められるどころかなんとお菓子をくれるではありませんか。そのことをきっかけに、兄は老婆のことが気になり始めます。これは老婆と子どもの歪な関係のお話。

 

 

感想

小学校の教科書に載りそうな児童文学調のテンポ感だったのですが、どの話もそのリズムにそぐわない絶妙な不穏さがありました。

平和な児童文学の皮を被っているけれど、何かが絶対におかしい。

何となくおかしい感じはあるのに、大きく取り沙汰はされずに淡々と物語は進んでゆきます。

 

 

 

 

 

⚠︎ここからはネタバレを含む感想です⚠︎

今回は結構ガッツリネタバレしているので、未読の方はご注意くださいませ。

 

 

  • あひる

まず「のりたま」という名前がとても可愛らしい。可愛らしいんだけれど、ちょっとひっかかるネーミングセンスなんですよね(もうこのあたりから不穏の仕込みスタート)。病院に連れて行かれる度に明らかに替え玉になっているのりたまに対し、何もつっこまない両親。「のりたまと遊びに来た」の限度を超え、家を荒らし深夜にまで押し掛ける異常な子ども達。非常識な子供達を叱ることなく、名前を知らない子のお誕生日会まで企画する両親学校に通うでもなく蚊帳の外のような状態で医療資格を取る勉強を延々としているわたし。

全部歪なんですよね…のりたまかわいいって長閑な気持ちで読み始めた私の純粋な心を返して欲しい。

 

 

  • おばあちゃんの家

認知症が疑われるおばあちゃんをあの手この手で閉じ込めるみのりの母。にもかかわらず、どんな手法を用いてか家を抜け出してしまうおばあちゃんの姿は、「ミトンを外して丁寧に枕元に置き、身体の拘束をすり抜けてドレーンや点滴を引っこ抜いた末、全裸でスヤスヤと心地よく眠る患者さん」を彷彿とさせました(病棟勤務者にしか伝わらないやつ)

マジでどうなってんだそのプリンセス天功も真っ青な脱出イリュージョン。

基本はみのり視点で語られるので優しいおばあちゃんだなあと思っていましたが、冷静に考えてインキョに閉じ込められているはずのおばあちゃんがみのり宅の電話に出てるの怖すぎました。普通に怪談じゃん。

 

 

「ぼっちゃん…ぼっちゃん…」の呼びかけと、孔雀(違う)の存在で仄めかされる前話との繋がり。

そうです、モリオとモリコが接触したのはインキョに住むみのりのおばあちゃん。

途中まで気づかなかったので「何だか気味の悪い婆ちゃんだなあ」とか思っていましたが、前話でみのりの親に迫害されていた事を思えば、遊びに来てくれた子供が可愛く思えた事にも合点が行きます。

おばあちゃんに懐き始めたモリオですが、おばあちゃんから与えられるお菓子よりももっと欲しいものが手に入った彼は最後にあっさりとおばあちゃんの事を見放します(もはや思考の外)。子供らしいといえば子供らしいのですが、子どもの無邪気さの悲しい一面だなと思いました。悪意が無いからなお悲しい…

 

 

 

とてもページ数の少ない作品な割に、強く印象に残る作品でした◎

ざわざわ感を残して本を閉じる感じ、よかったです!

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