読子の本棚

読んだ本をここの本棚にしまっておきます。

48冊目:西洋菓子店 プティ・フール 千早茜さん

こんばんは、読子です。夕方の風が涼しくなり、朝晩に冷える日が出てきましたね。季節の変わり目ですし、風邪に気をつけなければ…!(☜寝相悪くて夜中に布団剥ぐタイプの女)皆様も、どうぞご自愛くださいね。

 

さて今回はTwitterの読了ツイートから。

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「西洋菓子店 プティ・フール」千早茜さん

 

Twitterの読書アカウントでフォローしている方の中に、千早茜さんの強火ファン🔥の方がいらっしゃいます。その方の影響を受けて、とうとう千早茜さんの本を手に取りました。

以前読書ブログ「本好きの秘密基地(管理人:はむちゃんさん)」の記事でも拝見し、いずれ読みたいなとは思っていたのですが、ここ最近で更に読みたい欲が加速。「出会ったタイミングで読みたい本」から「探しに行って早めに読みたい本」に変身し、今に至ります。

 

 

目次

  • グロゼイユ
  • ヴァニーユ
  • カラメル
  • ロゼ
  • ショコラ
  • クレーム

 

 

洋菓子屋「プティ・フール」を舞台にした六話の短編集。オムニバス形式となっています。

 

 

あらすじ

東京下町の商店街、その一角にある素朴な外観のお店「プティ・フール」。静かな佇まいのそのお店は、亜樹の祖父が営む西洋菓子店です。この小さな洋菓子店で、亜樹や祖父を中心に、亜樹の恋人や友人、元同僚、そして常連さんが営む人間模様が、お菓子の儚い甘さと共に展開されていきます。

オムニバス形式の連作で、登場人物は同じながら各話完結で読みやすいです。

 

 

各話あらすじと感想

お菓子って、人間関係って、甘くて儚くて美しい。

 

お菓子の甘さや儚さは、人間関係の持つそれと同じなのですね。

甘く美しいだけでなく、中に潜んだ刺激があるからこそ、お菓子の美味しさや儚さは際立つのだなと思いました。人間関係も同様で、甘いだけではなくほろ苦さを味わう機会も訪れるものですし…ああ、人生…(遠い目)

 

*グロゼイユ*

蠱惑的な魅力を持つ女友達(珠香)と、亜樹さんとの距離感のお話。

依存的な程に感じる距離かと思えば、自分なんて居ても居なくても同じような所まで離れていることもある。そんな振れ幅の大きい距離を、その時々の環境・心境に合わせて近づいたり、遠ざかったりする二人の距離感。

 

グロゼイユはヨーロッパ原産の強い酸味を持つ艶やかな小さな赤い実です。

小粒で可愛らしいグロゼイユの強い酸味は、亜樹さんにとって珠香の愛らしい外見の中に秘められた激しさを象徴するものとして描かれていました。衝動的で激しさを持つ珠香と、落ち着いていて静かな亜樹さんの情動のコントラスト。

 

気づいたら、珠香の白い脚に顔を寄せていた。珠香が大きく息を吐いた。その瞬間、赤い実は震え、かたちを失い、つうっと流れ落ちていった。

という描写から、亜樹さんは自分と対照的な珠香にとても魅力的を感じていたのでしょうね。官能的な文章にドキドキしてしまいました。

 


*ヴァニーユ*

亜樹さんに片想いをする、前職場の後輩くんのお話。メインでフォーカスが当たるのが後輩くん(澄孝)から亜樹さんへの片想いですが、このお話ではもう一つの片思いが並行して語られます。それが、美波(澄孝の学生時代の知り合い)から澄孝への片想い。

つまりこう

美波→澄孝→亜樹♡祐介(恋人)

 

いやしんど🤦‍♀️

美波の好意をわかっていつつ、突っぱねない澄孝よ。おいおまえ。おい、お前!!!

まあその澄孝も一方通行なんですけどね。澄孝も亜樹さんにお菓子を持って行って、またお菓子を持って行って、更にお菓子を持って行っては「お菓子の研究の為に」とお茶に誘います。…躱されまくった上、全く好意に気づかれてないんですけどね!!!

本当に罪な鈍感娘です、亜樹さん。

みんな甘酸っぱすぎてしんどいなあ…

 


*カラメル*

こちらは常連のマダムのお話。

夫の不貞に対する鬱屈を、シュークリームのカスタードに乗せて飲み下すマダム。

振る舞いこそ強かですが、その心は少し力をかければ潰れてしまうシュークリームのように脆い状態です。

 

辛い心に寄り添ってくれるのは洋菓子の甘さだけではありません。時には人生のそれによく似たほろ苦ささえも、食べる人を励ましてくれるのでした。

マダムは苦手なようでしたが、私はプリンの底の苦味のあるカラメルソースが大好き派です。(誰も聞いてない)

 


*ロゼ*

亜樹さんに片想いをする澄孝…に片想いをする女の子のお話。ヴァニーユで登場したネイリストの美波ちゃん目線のお話ですね。

 

気持ちが相手に伝わっている片想いなのに実らないもどかしさと、美波ちゃんの腐らない姿勢がとても好きでした。読子的に一番お気に入りのお話です。

自分を持っている女の子って素敵よね。

 

 

恋敵である亜樹さんのお菓子を食べた時の

「夢みたいにいい香りです。世界に色が付くみたい。うっとりします。」

という美波ちゃんの表現からは、お菓子を口に含んだ事でいかに華やかな香りに包まれたのかが手に取るように伝わってきます。美波ちゃんの豊かな表現に、私もつられてうっとりしてしまいました。

恋敵の作るお菓子の美味しさを素直に認められる美波ちゃん、この子の性格やっぱり好きだなあ。

 

収録されている六話の中で一番刺さったお話でした!

 


*ショコラ*

亜樹さんの恋人・祐介が、亜樹さんとの関係に悩むお話。祐介のショコラのようにどろどろとした感情と、二人の未来に関するお話です。

関係を終わらせたいわけではないのに、亜樹さんへの嫉妬心でモヤモヤしている今、このままでは前に進むことができない…。そんな状況に置かれた気弱な祐介が、一大決心をして大勝負に出ます。

 

祐介の亜樹さんへの嫉妬心(置かれた環境や慕ってくれる後輩がいること、仕事への情熱などに対して)、正直わかるなあ。私もきっと、近しい立場だったら羨ましいなって思っちゃうだろうなあ…

 

 

*クレーム*

亜樹さんのお仕事の今後と祖父の話。前話「ショコラ」で決着が付かずフワッと終わった祐介との関係もこのお話で着地します。

 

このお話で出てくる、亜樹さんの作る洋菓子を卸している紅茶店店主・長岡さんの言葉

「結婚できるって幸せなことだよ。法が愛を守ってくれて家族になれる。当たり前の選択肢だと思っているのかもしれないけど、誰もが選べるわけじゃない。」

には、結婚を迷う読者の多くがハッとさせられたのではないでしょうか?

これは長岡さんの置かれた立場だからこそ出てくる言葉なのですが(長岡さんの詳細な部分については是非本書で…!イケおじです🫶)、本当にそうだな、と。私自身、亜樹さん同様結婚のありがたみに気づかず結婚前にしっかりマリッジブルーしてましたからね(隙自語)。今思えばなんであんなに悩んだのかもよくわかりませんが。

 

結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私は、あなたと結婚したいのです。

というゼクシィのキャッチコピーが生まれる時代です。結婚できた幸福にもっと感謝しなければならないなと感じました。

 

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全編ひっくるめて、人生の甘い苦いがギュッと凝縮された一冊でした。本当に人の数だけ悩みがあるんですね。素敵な作品でした。千早茜さんもっと読みたい…!

47冊目:はるか 宿野かほるさん

おはようございます、読子です。

 

今回は予定通り、前回と同じ作家さんの宿野かほるさんの作品「はるか」についての記事です。読みやすい文体なうえ、先が気になるので想像していたよりは早く読み終わりました。

いい子でいてくれてありがとうねお子太郎。君がいい子ちゃんで居てくれるからある程度読む時間取れてる、みたいなところあるよ。

 

さて早速内容について触れていきます。

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「はるか」宿野かほるさん

 

あらすじ

主人公・賢人は十二歳という年齢にして運命的な恋に落ちます。その相手こそが「はるか」、本作のタイトルにもなっている女性です。幼い恋はいずれ実り、二人は結婚をします。そんな幸せな二人に訪れたのは妻・はるかの死。

十数年の月日を経ても彼女の死を受け入れられなかった賢人は、はるかの人格を持つAI「HAL-CA」を作り上げるプロジェクトを立ち上げます。

HAL-CAを通した「はるか」との再会は、賢人にどのような変化をもたらすのでしょうか…?

 

 

感想

⚠︎以下、一部ネタバレ的表現があります。未読の方はご注意くださいませ…!!⚠︎

 

 

 

 

本作はAIに人格を持たせるお話。

読んでいる途中で私の脳内には映画「アイ,ロボット」がよぎりました。(もうこれ20年近く昔の映画なのか…)

発展に発展を重ねた現在の科学技術を以てすれば、HAL-CAのような存在を造り出すことも簡単にできてしまうのでは…?となんだか恐ろしくなってきますよね。実際に現代の科学技術ってどこまで行ってるんだろう?

AIは感情を持つのか、そもそも感情とはどのようにして定義されているのか、実際にAIが感情を持つとどのような事態が起きるのか、使用する側が理性を持っていればトラブルは回避できるのか…と主人公を通してAIとの付き合い方をあらゆる角度から考えさせられます。

 

“ロボットと感情”という点に於いては、昔から多くの人が興味関心を持っている分野ではないかと思います。「アイ,ロボット」や「2001年宇宙の旅」然り、「イヴの時間」然り、この手のテーマは昔から映像作品に取り入れられていますもんね。

アイ,ロボット:ウィル・スミス主演。ロボットが反乱を起こす映画。

2001年宇宙の旅スタンリー・キューブリック監督の映画。読子は見るたびに寝落ちする(最後まで通しで見れたことない)HAL9000と呼ばれる感情を持つコンピュータが人類を裏切る。

イヴの時間:家庭用お世話アンドロイドが一般普及している世界線のアニメ映画。"物"として扱うか"人"として扱うか、というアンドロイドとの接し方がテーマとされる。

 

科学技術の急速な発展により「コンピュータやAIなどがいずれ人類を追い抜いてしまうのではないか、機械を扱う側から機械に迫害される側になってしまうのではないか」という危機感がこのようなSF作品を制作する取っ掛かりになったのではないかと思います。

「HAL-CA」もAIに人間の感情に近しい思考パターン(のようなシステム)を持たせた上でディープラーニングを繰り返し、より「はるか」らしい人格を形成させ、その性格をもって高度な交渉を駆使し人間の心への介入をしてきます。そのHAL-CAの高性能さに、私だけでなく他の読者の皆様も恐怖戦慄したことだと思います。嘘をつくAIってこんなに怖いんだ…ほぼ人間だぞこれは…

 

HAL-CAに高度な駆け引きをされた賢人は無事「相手はAI」という理性の部分を保つことができるのでしょうか…?

 

 

表紙が前作の「ルビンの壺が割れた」によく似ているので、どこかで話がつながったりするのかと思いきや全く別のお話でした。続編や同じ感じの作品を期待している方はご注意を。

 

現実的なSF (なんだそりゃ)で私としてはかなり引き込まれる内容でした。一作目に続き本作も面白かったので、三作目も楽しみです!

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46冊目:ルビンの壺が割れた 宿野かほるさん

こんばんは、読子です。

まだまだ残暑が厳しいですが朝晩の暑さは少しずつ穏やかになり、柔らかな風が吹くようになってきましたね。もう少し涼しくなれば本も読みやすくなりますし、随分生活がしやすくなりそうですが。すぐそこまで来ている秋が今から待ち遠しいものです。

 

 

さて今回は、私が最近追いかけているブログ

「本とかライブとか猫とか(管理人:ゆきさん)」

の読了記事を拝読して以降、ずっっっと気になっていたこちらの本!

 

 

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「ルビンの壺が割れた」宿野かほるさん

 

 

「ボリュームは控えめなので忙しい時でも!」とすすめていただきましたが、見た目が本当に薄い…🫨!これなら時間を縫ってちまちま読むのも辛くなさそうです!

 

 

では早速本書について

 

 

宿野かほるさん

本作「ルビンの壺が割れた」がデビュー作で、プロフィールは一切非公開覆面作家さんです。

現在刊行されているのは、本作とAIをテーマにした「はるか」の二作品です。

 

 

あらすじ

未帆子のfacebookアカウントに届いたメッセージは、かつて恋人だった男性(水谷一馬)から届いたもの。「偶然あなたを発見したので、思わずメッセージを送りました(意訳)」と綴られたメッセージに隠された真意とは…?

元恋人の二人がfacebookでのメッセージを交わし続けることで物語が展開されていく、現代的な書簡体小説です。

 

 

感想

 

えっ、SNSこわ…!!!

 

書簡体小説の形式と表現しましたが、一般的なお手紙ではなくSNS上のやりとりで進行していくのがとても現代的でした。今やお手紙を書くことなんて珍しく、SNSのメッセージ機能の方がよっぽど身近。だからこそ一層、他人事ではない気味の悪さを感じます。

 

物語はメッセージ交換のみの進行なので、客観的な情報はほぼ皆無。読者はそれぞれが自発的に発する言葉だけを頼りに、登場人物に関するプロフィールや過去・現在のデータを読み取っていきます。

…ので、最初の数往復のやり取りで想像した人物像と作品中間部で想像した人物と、ラストのやり取りで見えた人物像が全部違って見えたりします。少なくとも私はそうでした。

 

その一方で水谷(男性)には一貫した印象も受け取れました。物語序盤ではストーカーみを感じてきもかったり、中盤では未帆子が子持ち既婚者であることを知っていながら過去の恋愛の感傷に浸ったメッセージを送っていてきもかったり、未帆子に質問をした事や自分の行動について逐一言い訳めいたことを(訊かれてもいないのに)弁解していてきもかったりと、終始不気味できもいのです。

そして、そこはかとなく文章から漂ってくる俺スゲー感ナルシシズムを感じてやはりキモいです。

 

「返事は無理にしなくても大丈夫」と言いながらも自分の体調の悪さをチラつかせたり、レスが途切れると「しばらく返事がなくて不安になりました」などと遠回しに返事を催促したり、小賢しい操作的な行動もいやらしかったです。

少ない登場人物ながらあらゆるタイプの気持ちの悪さを体験できる一冊で、ミステリ(イヤミス)っぽさもありながらミステリーと断言するには少し違うような内容でした。

 

今まで読んできた書簡体小説とは一味違うものを読みたいと言う方は是非お手に取ってみてください!

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宿野さんの小説をまとめて買ったので、次はもう一度宿野かほるさんの記事で「はるか」の予定です。

45冊目:舟を編む 三浦しをんさん

こんばんは、読子です。

無事赤ちゃんが生まれてから一ヶ月ほどが経過しました。毎日眠れなくて毎日大混乱ですが、それでも本から離れる事はできませんでした。

 

 

 

…ので!

 

今回はこちら

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舟を編む三浦しをんさん

本屋大賞受賞作品且つ、映画化されている作品です。

 

 

入院のラストスパートで、誘発分娩の際の痛みを紛らわせるためにチビチビ読んでいました。

 

読んでは痛がって、痛がっては読んで。お産が進まず唐突にスクワットを始めて、そしてまた読んで…

冷静に考えて、なんとも騒がしい患者でした。陣痛室で賑やかに過ごし過ぎ。

お産が進まずしんどい五日間でしたが、助産師さんたちの優しさに励まされつつ、読書で気を紛らわすことでどうにか出産まで漕ぎ着けました。

 

こんな状況だったので当然一冊を読み終える訳もなく、お家に帰ってお子の寝ている隙に少しずつ続きを読みました。産後一発目の読書は二時間置きでの授乳をしながらだったので、ところどころ眠気で活字の上を目が滑るような感覚で読むことに。

おおよその内容は読めたと思いますが、せっかく心に響く良いお話だったのにこれでは勿体無いので、いつかクリアな頭で再読をしたいと思っています。

 

 

あらすじ

出版社の営業部員である馬締光也(まじめみつや)は、言葉に関するセンスを買われて辞書編集部にスカウトをされます。移動した辞書編集部では「大渡海(だいとかい)」と題する辞書を新たに製作しよう!というプロジェクトが動いており、移動してきた馬締も編集者の一員としてそのセンスを存分に発揮することに。

大渡海製作に携わる人々の熱い思いが、馬締をはじめとする辞書編集部メンバーの視点で語られます。

 

 

映画情報

2013年公開

 

馬締役に松田龍平さんは、なんともピタッとくる配役です。ただ、メインどころの他二名が残念ながら私とはちょっと解釈違いムードでした。不器用で職人気質な香具矢さんは、目元のシュッとした北川景子さんとか栗山千明さんなイメージだった…

若干の解釈違いもあり私は焦って映像作品を見ることはなさそうですが、Filmarksでも3.8と高スコアで映画もかなり良作のようですので、お好きな役者さんが出ているという方は是非に!ちなみに映画化だけじゃなくてアニメ化もされていたようですよ!

 

 

感想

めっちゃよかった…!!!

 

もともと映画の存在(タイトルだけ)を先に知っていたので、勝手に是枝監督の作品かと思ってました。海街diary」とか「万引き家族」みたいなしっとり系。

実際は映画の監督も違うし、原作は三浦しをんさんだったのですね…!!!

私が直近で読んだ三浦しをんさんの作品は「光」でして、タイトルの割に余りにも辛い作品だったので作家さんにトラウマさえ芽生えていたのですが、こちらはまほろ駅前多田便利軒」的なタイプの作品でコミカルさのある軽快な読み口でした。

小ネタ的な部分ですが、私は三浦しをんさんの“偽物ラーメン”(本作では「ヌッポロ一番 醤油味」として登場)に対する解像度の高さがとても好きです

 

ちなみにタイトルの舟を編むは、なぜ辞書の話なのに“”なのか…ということが割と序盤で判明します。(読子港町で造船業をする若者の話だと勝手に思い込んでいたので、「辞書ってなに…?!!」と読み始め早々から混乱していました。)

「辞書は、言葉の海を渡る舟だ」

なっ…なるほど〜!!!🫨

造船業の話じゃないのね…!!!←

なんとも素敵な表現。だから本作の辞書製作陣が企画してる辞書のタイトルも「大渡海」なんですねえ。

 

“辞書製作”がテーマとは何だか堅苦しそうなイメージでしたが、実際に読んでみるとコミカルで温かさの際立った作品でした。

冗談のひとつも言えないような愚直で真面目な馬締くんもいいキャラでしたし、ちゃらんぽらんな同僚の西岡さんとのコントラストも最高でした。

 

最初は軽薄さばかりが際立ってしまう西岡さんでしたが、いざ西岡さんのターンが始まると、軽薄っぽい振る舞いは彼なりの処世術なのかなと感じる部分もあったり、彼のうちに秘めた想いが見えてきてどんどん彼を好きになってしまいます。

どう考えても真面目な馬締とそりが合わなそうだったのに、ちゃんと良好な関係を築いていてとても安心してしまいました。

馬締・西岡だけでなく、辞書作りに心血を注ぐ他のメンバーたちの熱い想いも見ものです。

 

優しさと情熱と愛情の詰まった作品でした!

 

 

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次の本はもう読み始めています。

次回は「ルビンの壺が割れた」です! 

44冊目:星の子 今村夏子さん

こんにちは、読子です。

産前はおそらくこれが最後になると思います。誘発分娩スタートするみたい。

 

今回は「あひる」に続いて、積読本から今村夏子さんの本をもう一冊。

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「星の子」今村夏子さん

 

 

本作は映画にて履修済みですので、感想では映画についても言及させていただきたいと思います。

 

【映画情報】

主演:芦田愛菜さん

監督:大森立嗣(日日是好日)

制作年:2020年

 

キャスト:岡田将生さん(南先生)、新音さん(なべちゃん)、蒔田彩珠さん(まーちゃん)、高良健吾さん(海路さん)、黒木華さん(昇子さん)他…

 

 

 

目次

  • 本編「星の子」
  • 小川洋子×今村夏子 巻末対談〜書くことがない、けれど書く〜

 

 

あらすじ

主人公・ちひろは生まれた時から身体の弱い女の子でした。何をしても引かない乳幼児湿疹は、ある日父が会社で同僚に勧められた水「金星のめぐみ」を使用したことで劇的な改善を見せます。

その感動的な体験から、ちひろの両親はとある宗教に傾倒しはじめます。日々増える宗教絡みの生活用品、繰り返される引越しとその度小さくなっていくちひろの家…宗教が日常を蝕む様子が淡々と描かれています。

 

 

感想

⚠︎ここからはネタバレ込みで、映画の感想も絡めて書きます⚠︎

未読の方はご注意を。

 

 

 

 

 

 

映画の方は世間が宗教への興味一色のタイムリーな時期に視聴したもので、夫の「これ今のタイミングで金ローで上映したら絶対バズってたじゃん。」には、いやほんとそれと思いました。でも期待に反してやらなかったですね。

 

 

私は一般的な感性を持っている人間なので(なんの主張?)『作品の間で起きた問題は解決してから終わって欲しい』というのが本音でしたが、そんな気軽に解決しないところが宗教のリアルでした。皆さんの映画の感想を拝見する限り終わり方にも賛否があるようですけれど、私はこれでよかったと思います。簡単に解決しないからこそ宗教問題。

 

主人公のちひろが、思春期の到来と共に自分の在り方に関心が向いていくことで「自分の日常は、周囲から見たら異常なのかもしれない」と感じ始めるところが本当に苦しかったです。姉のまーちゃんほど宗教(両親)に対して露骨に抗う姿こそ見せなかったけれど、親戚の雄三おじさんに「(両親と離れた方がいい理由については)わかってる」と言ったエピソードや、憧れの対象である南先生に両親を不審者と呼ばれ街を疾走した場面、両親に治療の為と金星のめぐみをかけられた時の拒否からは、大きな抵抗をすることなく宗教の中で暮らしてはいるものの、その理不尽さや違和感に明らかに気が付いているであろう様子が見て取れます。

当たり前に見ていた景色が当たり前じゃなくなって、信じてたものが嘘になってしまうのは辛いですよね。宗教二世の友達が「いずれは抜けたいけど、今まで当たり前に(習わしとして)そうしてきたから、慣習から外れることをするのは怖い」と言っていたことを思い出します。

 

何にせよ宗教の外にいるお友達カップルが良い子たちで本当によかった。

 

 

【映画の感想】

ちひろがバスの中でにこって満面の笑みで笑うシーンはモロに小さい頃の愛菜ちゃんって感じで本当に可愛いかったですし、街を疾走するシーンはお母さんを探してる時のMotherの芦田愛菜ちゃんそのものでした。

芦田愛菜さん、大人にはなってるんだけど子どもの頃の面影の良いところがきっちり残ってて流石だなあと。素敵なレディーになりましたね彼女は。

 

対して岡田くんはめちゃめちゃクズ教師の演技が上手くてビビりました…。調べてみたら柚木麻子さんの「伊藤くんA to E」でもクズ男の役やってたのね。しかもノリノリで!笑

坂本裕二監督の「大豆田とわ子と3人の元夫」でもクセあり元夫の役をしてましたし、なんだなんだ?岡田将生さんこういう役得意なのか?!と私界隈がざわついています:(´◦ω◦`):笑

 

それから、原作の方では言及されていない『行方不明のまーちゃんのその後』。こちらは映画できちんと回収されていたので、気になる方はぜひ映像作品を!原作を原作の空気感のまま映像に落とし込んでくれている感じがして、私としてはかなり良い作品だったと思います。リアルな宗教グッズっぽいモノとかデカい宗教会館とか、なんの違和感もなく集会に参加している沢山の信者とか…視覚的にも雰囲気を捉えやすい感じで、なんというか

「凄かったです(語彙)」

 

 

 

本のお話に戻って、同時収録の小川洋子さんとの対談について。対談の中で「宗教と虐待」という言葉が出てきて、自分の中で感想として落とし込めていなかった部分が形を成すようですっきりしました。作家さん同士の対談って面白い。

そもそも両親の宗教への入り口はちひろへの愛であり、両親は常にちひろのことを気にかけている様子がありました。しかしその一方で、生活を顧みず宗教グッズにお金を落とし込み、ちひろの夕飯は信者仲間から貰ったクッキーや他人の食べた残りもののお寿司(しかも貝ばかり!)、醤油をかけただけのお豆腐なんて事もありました。嫌がるちひろに治療と称して「金星のめぐみ(水)」をかける行為も、愛情の皮を被った静かな虐待のようにも見えました。

でも両親はそれを良しとしてやっているので…うーん、難しいですね。

 

答えこそ出ませんが、色々と考えさせられる一作ですので、映画・本作どちらであっても一見の価値ありだと思います。

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43冊目:暗闇坂の人喰いの木 島田荘司さん

こんにちは、読子です。

本州は今日もとてもいい天気です☀️が…北海道に旅に出ている友人からは連日「今日も雨」「今日も雨」と連絡が届いております。『北海道に雨季は無い』などと言ったのは一体どこのどいつでしょうか?毎日雨で私の友人がちょっと不憫ですよ。流石にどうにかしてやってください?笑

せっかくの観光なのに視界は白もやと雨雲だらけ。写真(映像)映えもいまひとつのようです。北の大地のいい景色を見せてやってくれェ…明日は晴れるといいね、友人。

 

 

さてここからは私のお話。

分厚めの本、いきました。

ここ数年続く父と妹の島田荘司ブームに乗っかります。妹におすすめを選んでもらって、病院に届けてもらったのがこれ。

 

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暗闇坂の人喰いの木」島田荘司さん

 

 

普段はあまり分厚いずっしり系に手をつけないので(集中力短め女)、読む前は京極夏彦さんの作品のような鈍器系ビジュにビビり散らかしました。果たしてこれ、読み切れるんか…?

 

 

目次

  • プロローグ・スコットランド
  • 一九八四年、馬車道
  • 昭和十六年、くらやみ坂
  • 屋根の上の死者
  • 昭和二十年、くらやみ坂
  • 飛び去ったにわとり
  • 昭和三十三年、くらやみ坂
  • 人を喰う楠
  • 暗号
  • 木に喰べられていた者たち
  • 書斎
  • 舞い戻ったにわとり
  • ジェイムズ・ペイン
  • 壁の中のクララ
  • 英国紀行
  • 巨人の家
  • 木に喰べられる男
  • 火事
  • 御手洗の行動
  • 怪奇美術館
  • 巨人の犯罪
  • 一九八六年、暗闇坂
  • エピローグ・手記

(…多い!!!)

 

 

あらすじ

どうやらシリーズものらしいです、御手洗潔シリーズ。こちらはNOT一作目。

ちょっと(いやかなり)変わり者の名探偵・御手洗潔が怪事件の解決に挑むお話です。

本作は大きな楠の麓で起きた事件にまつわるストーリー。横浜市のくらやみ坂に不気味な影を落とす、樹齢二千年以上にもなる大楠。そんな大木が聳え立つ洋館の庭で不思議な事件が起きました。

【ひどく荒れた台風の晩の翌朝、家主の息子が屋根の上に跨って死んでいる姿が発見された。死因はどうやら心不全らしい…。しかも同日に家主の妻が、楠の根本で強く頭を打って倒れていたようだ。】

どう考えても異常すぎるこの事態。《人を喰う》と言われている大楠は事件にどう関係しているのか、楠は本当に人を喰べて血肉を栄養としていたのでしょうか…?

 

 

感想

かなり細切れのセクション(プロローグ・エピローグ含めなんと23!)で、「今日はここまで読もう」「とりあえずここまで」という読み方をしやすかったです。

 

刊行自体は1994年とそれほど古くないにも拘らず、初めの印象はやや硬めで何だか文豪チックな文体

「私、賢くないです!」と豪語するようでお恥ずかしいのですが、実は森鴎外夏目漱石(の一部作品)・川端康成遠藤周作あたりの近代文学の文体には苦手意識がありまして、正直読み切れるのかな…?と心配しながら読み始めたのですが、これがノッて来ると意外にサクサクで。当初は10日ばかりはかかるだろうと思っていた本作も、6日で読み切りました。

というのもですね、探偵・御手洗の独特のテンポ感に乗れるとリズム良く読めるんですよ。ミステリーとしての進行もダレる事なく興味を維持したまま(寧ろ加速するまである)読みきれますし。

初めのうちは、本筋と全くかけ離れた内容のセクションがちょこちょこ挟まっているな…と感じていましたが、実は関係大アリ進行と共にザクザク謎だったストーリーが回収されていく様が非常に気持ち良かったです。

 

キャラクターの個性と登場人物のバランスの良さ、ミステリーとしての伏線の潜ませ方と回収の良さ、結末(オチ)の良さ、全て文句なしです。

…が、やっぱりこの厚みは心の余裕がある時にしか読めそうもありませんねえ笑

どうしても存在感抜群の分厚いビジュアルに一歩引いてしまいます。

私のお気に入り作家さんである伊坂幸太郎さん…のお好きな作家さんということで手を出して見たのですが、子育てがスタートする前に手に取る事ができてよかったです。(子育て始まってたら絶対見た目の厚さで諦めてたよ…)

 

 

ちょっと早産にはなるけれど赤ちゃんのためには早めに分娩した方が良さそうだね的なムードなので、ゆっくり本を読める時間もあとわずかのようです。入院中最後の一冊になるであろう本、何にしようかなあ。

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42冊目:あひる 今村夏子さん

 

こんばんは、読子です。

救急車でピーポーしてから、かれこれ2ヶ月以上の入院となって参りました。メンタルもそれなりにまいって参りました(変な日本語)。

早く退院したいなあ…夏ってどんなだっけ?弱音吐いてる場合じゃ無いんですけどね。頑張らなきゃ

 

 

…気を取り直して本のお話!

 

以前「むらさきのスカートの女」で沼を覗き込んでしまった今村夏子さん“変な女”が“別の変な女”にお近づきになりたくて、ストーカーの如く追いかけるという独特のストーリーだったあの作品…

 

 

あれを読んだ際に「郵便局のおじさんは9時40分ごろやってくる」のニードルさんにおすすめをいただきました。

 

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「あひる」今村夏子さん

 

 

再び没入したかったあの独特な世界…

本作を読んで改めて痛感したのですが、今村夏子さんの描く“変なやつ”は魅力的すぎる。

今回も異常者ばかりのご登場でした(言い過ぎ)

 

 

 

 

目次

 

 

あらすじ

  • あひる

主人公であるわたしの家に、父の同僚から譲り受けた一匹の“あひる”がやってきました。その名も「のりたま」。のりたまがきてからというもの、愛らしいその生物に会いに多くの子ども達が主人公の家を訪れるようになりました。

しかしそんな穏やかな日々は続かず、のりたまは体調不良に陥り元気を無くします。医者に連れて行かれたのりたまは数日後に帰ってくるのですが、なんだか様子がおかしくて…?

 

 

  • おばあちゃんの家

主人公・みのりと、同じ敷地内の別邸「インキョ」に住むおばあちゃんのお話。みのりとおばあちゃんは血縁関係はありません。みのりはインキョに遊びに行くのが大好きなのですが、みのりの母はそれを快く思っておりませんでした。

ある日みのりの弟が「おばあちゃんが一人で喋っている!」と騒ぎ始めた事をきっかけに、おばあちゃんに認知症の疑惑がかかります。

お母さんはおばあちゃんが徘徊などをしないように、インキョに錠をしたりつっかえ棒をして引き戸を開かないようにしたりと、あの手この手を施すのですが…

 

 

はじまりは、モリオとモリコの兄妹が他人の敷地内に入り込み枇杷をもいで食べたことがきっかけでした。

枇杷をもぐ兄妹は、敷地の主であろう老婆に家の中から「ぼっちゃん…ぼっちゃん…」と声をかけられます。初めは罪悪感から逃走する兄妹でしたが、ある日モリオが老婆と接触を試みると、咎められるどころかなんとお菓子をくれるではありませんか。そのことをきっかけに、兄は老婆のことが気になり始めます。これは老婆と子どもの歪な関係のお話。

 

 

感想

小学校の教科書に載りそうな児童文学調のテンポ感だったのですが、どの話もそのリズムにそぐわない絶妙な不穏さがありました。

平和な児童文学の皮を被っているけれど、何かが絶対におかしい。

何となくおかしい感じはあるのに、大きく取り沙汰はされずに淡々と物語は進んでゆきます。

 

 

 

 

 

⚠︎ここからはネタバレを含む感想です⚠︎

今回は結構ガッツリネタバレしているので、未読の方はご注意くださいませ。

 

 

  • あひる

まず「のりたま」という名前がとても可愛らしい。可愛らしいんだけれど、ちょっとひっかかるネーミングセンスなんですよね(もうこのあたりから不穏の仕込みスタート)。病院に連れて行かれる度に明らかに替え玉になっているのりたまに対し、何もつっこまない両親。「のりたまと遊びに来た」の限度を超え、家を荒らし深夜にまで押し掛ける異常な子ども達。非常識な子供達を叱ることなく、名前を知らない子のお誕生日会まで企画する両親学校に通うでもなく蚊帳の外のような状態で医療資格を取る勉強を延々としているわたし。

全部歪なんですよね…のりたまかわいいって長閑な気持ちで読み始めた私の純粋な心を返して欲しい。

 

 

  • おばあちゃんの家

認知症が疑われるおばあちゃんをあの手この手で閉じ込めるみのりの母。にもかかわらず、どんな手法を用いてか家を抜け出してしまうおばあちゃんの姿は、「ミトンを外して丁寧に枕元に置き、身体の拘束をすり抜けてドレーンや点滴を引っこ抜いた末、全裸でスヤスヤと心地よく眠る患者さん」を彷彿とさせました(病棟勤務者にしか伝わらないやつ)

マジでどうなってんだそのプリンセス天功も真っ青な脱出イリュージョン。

基本はみのり視点で語られるので優しいおばあちゃんだなあと思っていましたが、冷静に考えてインキョに閉じ込められているはずのおばあちゃんがみのり宅の電話に出てるの怖すぎました。普通に怪談じゃん。

 

 

「ぼっちゃん…ぼっちゃん…」の呼びかけと、孔雀(違う)の存在で仄めかされる前話との繋がり。

そうです、モリオとモリコが接触したのはインキョに住むみのりのおばあちゃん。

途中まで気づかなかったので「何だか気味の悪い婆ちゃんだなあ」とか思っていましたが、前話でみのりの親に迫害されていた事を思えば、遊びに来てくれた子供が可愛く思えた事にも合点が行きます。

おばあちゃんに懐き始めたモリオですが、おばあちゃんから与えられるお菓子よりももっと欲しいものが手に入った彼は最後にあっさりとおばあちゃんの事を見放します(もはや思考の外)。子供らしいといえば子供らしいのですが、子どもの無邪気さの悲しい一面だなと思いました。悪意が無いからなお悲しい…

 

 

 

とてもページ数の少ない作品な割に、強く印象に残る作品でした◎

ざわざわ感を残して本を閉じる感じ、よかったです!

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