読子の本棚

読んだ本をここの本棚にしまっておきます。

63冊目:悪の芽 貫井徳郎さん《第5回 屋根裏の内緒話》

こんばんは、読子です。

5月も三分の一が過ぎました。木の葉の色も深みを増し、山々に初夏の彩りが見え始めましたね。気づけばあっという間に半袖の出番です。

 

 

さて、それでは今回も行ってみましょう

「第5回 屋根裏の内緒話!!!」

現在の読書会は、「本好きの秘密基地」のはむちゃんさんがお休み。引き続き「郵便局のおじさんは9時40分ごろやってくる」のニードルさんと二人体制です。

 

 

今回の選書はニードルさんのターン!

 

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「悪の芽」貫井徳郎さん

やや…!何やらボリューミーな本🫨これは読み応えがありそうです。

 

 

目次

  • プロローグ
  • 第一章
  • 第二章
  • 第三章
  • 第四章
  • 第五章
  • 第六章
  • 第七章
  • エピローグ

 

 

あらすじ

毎年開催される大規模なアニメの祭典、「アニコン」。グッズを買ったりコスプレをしたりと、皆が楽しみに興じて笑顔になるはずのこの大きなイベントで、無差別殺人事件がおきました。人混みには火炎瓶が投げられ、警備員は刺されます。犯人である斎木均は一通り騒ぎを起こしたのち、自身の直上に火炎瓶を放り焼身自殺を図りました。

犯人が亡くなってしまった以上、事件の動機は闇の中…ニュースでは「小学生の頃のいじめがきっかけで」と語られますが、事実やいかに。

小学生当時同級生だった安達周は、いじめに加担してはいませんでしたが、いじめのきっかけを作った一人。【就職氷河期世代】と呼ばれる世代の中で、銀行員として出世街道を突き進む安達。しかし、この無差別殺人をきっかけに出世・裕福で幸せな家庭という現状に影が落ちます。

 

 

感想

因果応報…

って言ってしまえばそりゃそうなんですけど、この言葉だけで括るには勿体無い濃厚さの話でした。

 

主人公の安達周は小学生時代に、ちょっとした嫉妬心から斎木均にいじめのきっかけとなるあだ名を付けます。事件の後から「あの頃の事が原因で…?」と罪悪感に苛まれ、パニック障害を発症。 

この場面ですでに「最終的に自分を罰するのは自分自身なんだなあ」と教訓を得る読子罪悪感は自分で自分に盛る毒なのですね…

そして薬がすぐに効かないことにそわそわしている安達さんの気持ちですよ。これ、とてもよくわかります…精神科のお薬って、物によっては即効性ないですもんね。何を処方されてるかはわかりませんが、SSRIみたいな抗うつ薬とかだと服薬開始後二週間経過してからが本番!みたいなところあるし…

鎮痛剤みたいに「飲んだらすぐ治る!」のマインドで挑むと肩透かしを喰らって辛いんだよなあ…

でも精神科のお薬はすぐすぐ諦めるなよ!お姉さん(30)との約束だ…!!(※もうお姉さんの年齢じゃないNE⭐︎)

 

 

さて、薬でパニック障害を抑え込めず痺れを切らした安達が始めた斎木の過去追求。正直はじめは「自分が悪くないことの証拠探し」的な動機でモヤっとしましたが、自分の罪と向き合う安達の姿に気づけば応援をしていました。いじめのきっかけを作ったことで被害者遺族からの仕返し(いじめ加害者の特定)を受け、幸せが脅かされる恐怖に陥ったのは因果応報ではあります。けれど、過去のちょっとした嫉妬心が、まさかこのような結果をもたらすだなんて夢にも思わなかったでしょうしね。まさにこの本で言及されている「人間は自分が思っているよりも想像力を働かせることができていない」ということなんでしょうね。

 

 

斉木に対するいじめについては、本書で

いじめは、ブレーキのない車のようだと思う。一度走り出すと、もう停められない。あの時のクラスの雰囲気は、まさにそうだった。

二章 P.78

このように言及されていましたが、「ブレーキのない車」とは言い得て妙ですね。本当にそう。

一度“誰かをいじめてもいい雰囲気”のようなものが出来上がってしまうと、みんなが「〇〇がいじめられているのは日常。そういうものだよね?」とでも言わんばかりに当たり前にいじめは継続されますからね。いじめられてもいい人なんてどこにも存在しないはずなのにね。

 

 

また、斎木は無差別殺人ののち本人も自殺をしてしまったので、責任の所在は両親に…という流れの中で

「犯人の親に責任を問うのは、筋違いではないかと思うからです。未成年者ならともかく、四十過ぎの息子がしたことの責任を被らされても、親としては気の毒でしょう。」

六章 P.284

と発言した被害者遺族が存在しました。

気の毒なのは我々被害者遺族だ。」という被害者遺族の気持ちも尤もですし、よくわかります。だからこそ、被害者遺族という立場にありながらも冷静な判断ができたその女性の視野の広さには尊敬。

 

そしてこちらは、キャバ嬢のシングルマザーが口にした台詞。

「〜(略)。そういう人って、面と向かっては言わないんですよね。ネットで匿名だから、言いたい放題なんです。人間って匿名だといくらでもひどくなれるんですよね。」

七章 P.328

そして安達の独白がこう続きます

匿名の仮面を被ると、下劣な品性を露わにする人がいる。卑怯と言うしかない。

七章 P.328

 

本質すぎますよね…これ。近年ネットでよく見る光景です。逆に言えば、現実世界でそこまでひどい言葉をぶつけられる事は少ない印象です。

やはり匿名で自由にものが言えるのはメリットでもありますが、使い方を心得ていない人が使えば心を攻撃する凶器にもなり得るのでしょう。(自戒を込めて)

 

事件の犯人の人生を辿るようにして、同時に被害者遺族のその後も語られる…様々な視点から一つの事件を見つめる深みのある一冊でした。なんだかとても学びが多かったなあ。

 

今回も素敵な選書をありがとうございました!

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