読子の本棚

読んだ本をここの本棚にしまっておきます。

2冊目:太陽の塔 森見登美彦さん②

お仕事が忙しくて読了までに時間がかかってしまいましたが、森見さんの「太陽の塔」をようやく読破しました。2冊目②、こちらは感想編です。

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男汁溢れる手記を読んだ結果、体臭が人一倍濃くなりました(謎)

本作はストーカー(主人公)vsストーカー(恋敵の遠藤)の陰湿なやりとりを中心に物語が繰り広げられる、大学五回生である主人公の休学記録です。本書裏表紙には

失恋を経験したすべての男たちと、これから失恋する予定の人に捧ぐ

とありましたが、蓋を開けてみれば全くセンチメンタルなムードではなく、読んでいる途中に裏表紙を見返して盛大な要約詐欺であることに気づいてニヤッとしてしまいました。

本を手にした時点では、森見さんもセンチメンタルでデリケートなお話を書くのか…と思っておりましたが、安心・安定の森見節です。
というかよく考えてみれば滑り出しからセンチメンタルでデリケートなんてあったもんじゃなかったですね?笑



さて舞台はいつもの【京都府のあの地区】。四畳半神話大系にも出てくる「下鴨幽水荘」は本作でも登場。もちろん本作の主人公も例によって屋台「猫ラーメン」を追いかけます。他の作品の主人公らと同じ地域で本作の主人公が生活をしていると思うと、なんだかもう本当にカオスだなと。京都濃すぎんか…?

夜は短しのヒロインが酒を飲み歩き、大学では韋駄天コタツが疾風の如く駆け、本作の主人公は同じ街の中で遠藤という恋敵(ストーカー)を相手に陰湿で生産性のない攻撃と報復を繰り返します。


そして、来たるクリスマスイブには恋愛ごとにうつつを抜かしている恋人たちの邪魔をするイベント(?)を盛大に行おうと画策します。
恋人のいない自分達を差し置いて勝手に盛り上がる世間。そんな冷たい世間をどうだひとつ掻き回してやろうか、という計画です。
しかしこの計画…実行するためにはクリスマスイブの浮かれた街を、寂しい男たちだけで練り歩く必要があるという捨て身の計画です。むさ苦しい男同士で結束した結末やいかに…?!
主人公達の迎える結果は、ぜひ本をお手に取って見届けてあげてください。

ちなみに主人公の名誉のために言っておきますが、主人公がモテないから世間に迷惑をかけようというわけではありません。主人公たちは“あえて”恋人のいない生活を選び取っているそうですよ。(隠しきれない負け犬感)



このストーリーは、モテない男たちが終始イジイジと陰湿に世間を恨み続けている日記だと思っていたのですが、最後まで読み切ってようやくわかりました。
主人公が「終わってしまった自分の恋」にピリオドを打つためのグリーフケア的要素を持つ日記だったのですね。過去の自分を振り返り、気持ちを整理して前を向くための日記だったようです。
男汁の溢れる、発酵しているんだか腐敗しているんだかわからない日記ではなかったのですねえ。


そういえば、主人公の相棒として「まなみ号」という自転車が出てくるのですが、まなみ号は紆余曲折あって一度主人公の元を離れてしまいます。
最終的(もはや忘れた頃)には彼の手元に戻ってくるのですが、生身の女ではない彼女は主人公が手放しさえしなければずっと彼のそばにいてくれるレディーだったのですね。
捨てる神(元彼女)あれば拾う神(自転車)あり、とでも言うのでしょうか?彼の心を支えてくれる女の子はきちんと彼のそばにいたんですねえ。