読子の本棚

読んだ本をここの本棚にしまっておきます。

26冊目:[新釈]走れメロス 森見登美彦さん

 

こんばんは、読子です。

前回はドロっとしていましたが今回はたぶん軽快めな本!

 

今回の本は森見登美彦さんの「[新釈]走れメロス(他四篇)」です。

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目次

1.山月記

2.藪の中

3.走れメロス

4.桜の森の満開の下

5.百物語

 

 

あらすじ

あらすじも何もありませんが、国語の教科書に載るような古典名作たちが森見さんの解釈により、京都が舞台のお話にリメイクされた作品です。

 

本記事あらすじ部分を編集している現在はまだ読む前ですが、おそらく「全裸山月記」で「藪の中四畳半の中」で、以下「走れふんどしメロス韋駄天こたつと共に」「下鴨神社桜の森の満開の下」「呑んだくれ百物語」な感じなんじゃないかなあと思ってます(失礼)(失礼)(本当に失礼)(でも期待)。違ったらごめんなさい。

 

 

 

各話あらすじと感想

1.山月記

中島敦さんの「山月記」を改変した作品。留年と休学を繰り返し、実に十一年もの間学部生として大学に居座った斎藤秀太郎の話。

原作山月記の李徴殿が虎さんになってるので、山中全裸描写とかあるのかなって思ってたら、まさかの変身前から全裸でした(当たらずとも遠からず)

森見さんなので終始しっかりおふざけ系で進行するかと思いきや、ラストに向かうにつれてなんだかしんみりするムードでもあり、きちんと原作のように「あああ…(言語化困難)」という気持ちにさせられました。

斎藤の「俺は人とは違う。凡人ではないはずだ」という肥大化した自意識は、彼を京の地でどのような姿に変えるのでしょうか。

 

2.藪の中

芥川龍之介さんの「藪の中」の改変作品です。物語の進行は、原作同様に一つの事象(本作においては一本の映画)についてさまざまな人物の目線で語られます。芥川さんの藪の中もなかなか穏やかではない内容でしたが、こちらもまた…

大学の映画サークル監督を務める鵜山が、恋人の長谷川とその元恋人である渡邉を主演として二人の恋をなぞらせるお話です。つまり、自分たちで過去の己を演じさせる脚本ということ。

なぜ主演にあの二人を選んだのか。サークル内では非難轟々だった。極悪非道、助平、人間失格、サディスト、むしろマゾヒスト、いや出歯亀、いっそ屁こき虫。いろいろ言われた。

とありますが、なんていうか…たぶんこの鵜山はNTR作品みたいなのは嫌いじゃないんだろうなって思いましたでも屁こき虫は違うだろ。

どうしてそんな辛い思いしてまでNTR作品を見たりイヤミスや鬱マンガ読んだりするの?という疑問を持つ方も世の中には存在すると思いますが、「辛いのが良い」と、たぶん本当にそんな感覚なんだと思います。私も、ハッピーエンドなサクセスストーリーよりも胸糞悪くて最後まで鬱展開の作品の方が惹かれてしまうから鵜山の気持ちわからなくないよ…

何言ってるのかよくわらないかもしれませんが、私もこの「辛い方がいい」の内訳をうまく言語化できないんですよね。辛くない方がいいはずなのに…

ちなみに映画の撮影場所の屋上は、山月記の斎藤の提案だったりします。語りの一人として斎藤も登場します。

 

3.走れメロス

太宰治さんの名作、あの友情ストーリーの改変です。山月記、藪の中としっとり悶々系が続いたので、メロスでもおふざけはしないのかな?と思ったら森見節大爆発でした。

あの詭弁論部…なんと廃部の危機!詭弁論部を守りたくば、学祭でピンクのブリーフを履き青く美しきドナウに合わせて舞台で舞うこと。

そんな耐えがたい羞恥を背負わねばならぬ無理難題を、中途半端に正義感の強い主人公・芽野はその場で引き受けます。

もちろん話の進行はメロス。詭弁論部のメロスが大人しく踊るわけがありません。同じく詭弁論部の友人である芹名を人質(芽野が帰らなければ芹名がピンクブリーフ)として差し出し、存在さえしない姉の結婚式に向けて走ります。

たぶん三話の中で一番スピード感があって、一番絶好調でした。詭弁論部がこたつで議論し、図書館警察と戦い、氾濫する鴨川を渡って逃げる…と、普段から森見ワールドに浸かっている人は楽しくてしょうがない内容になっていました。大サービスだねこりゃ。

 

4.桜の森の満開の下

坂口安吾さんの原作の改変です。相変わらず斎藤が顔を出してきます。

小説を書いていた主人公は、同じく物書きをしている斎藤を慕っていました。彼は斎藤にアドバイスを求め、斎藤の指導に則り作品を作ります(ですが作品はいまひとつ…)。ある日彼は桜並木の下で妖しくも艶やかな一人の女と出会い、彼女の指南により彼の小説家人生が大きく動いていくことになります。

原作よりも女の恐ろしい描写は少なかったですが(他の妻たちを皆殺し・首遊びなど)、桜や女の妖しさや儚さは変わらずそこにありました。

おふざけは少ないけれど、現在の京都を舞台にして原作の良さをさらにブラッシュアップさせたような作品でした。

 

5.百物語

森鴎外さんの作品の改変のようです(原作未履修)。

ラストで別のお話に登場してきた斎藤・芽野・芹名・鵜山・永田(山月記)たちが大集合。わちゃわちゃしてるのに、不気味な感じはしっかりあります。夏のじとっとした感じの中、いつ始まるのかわからない百物語を彼らと一緒に待つ気持ちで読みました。全然呑んだくれ百物語じゃなかった。

 

 

原作改変モノなだけあって「四畳半」や「夜は短し」のような破天荒さはありませんでしたが、それでも不思議と森見さんらしい世界が広がっている作品でした。四畳半・夜は短しの映画とアニメが履修済みなせいか、本作は映像として見たことがないはずなのに何故か脳内で映像が流れ続けていました。(そんだけ森見ワールド癖強いんだね。)

別作品の映画に引っ張られた感想ですが、脳内がずっとカラフルでした!賑やかだった!

原作改変ものって意外とたのしいのね!

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それではまた次回!