読子の本棚

読んだ本をここの本棚にしまっておきます。

7冊目:あなたの不幸は蜜の味 イヤミス傑作選②(1)

こんばんは、読子です。

少し遅くなってしまいましたが、本日から「あなたの不幸は蜜の味 イヤミス傑作選」イヤミスアンソロジーの感想編スタートです。

 

 

収録作品は以下の六編です。

 

  1. 石蕗南地区の放火(辻村深月さん)
  2. 贅肉(小池真理子さん)
  3. エトワール(沼田まほかるさん)
  4. 実家(新津きよみさん)
  5. 祝辞(乃南アサさん)
  6. おたすけぶち(宮部みゆきさん)

 

 

こちらの②感想編(1)では太字の1.石蕗南地区の放火および2.贅肉について触れさせていただきます。

 

1.石蕗南地区の放火(辻村深月さん)

連続する不審火と、消防団員の男の好意を結びつけてしまった女の話。

 

同性だからかもしれませんが、主人公の女の自意識には「うわぁ…」を感じてしまいます。

言動の端々から感じる“私はその程度の女じゃない”という自分に対する自信。

明確に自分スゲーしてるわけではないですし、むしろ控えめなお淑やかさえ振りまく主人公。

ですがその腹の中はそこそこに攻撃的なもので、「舐められるのは嫌い」「馬鹿にしないで」といった感情が渦巻いています。

あからさまなマウントこそ取りませんが、「あの時ああ言ったから」とか「あれは社交辞令であって思わせぶりな態度をとるつもりは…」とか、あれこれ考えているその自意識過剰さが『ねえ、実は自分大好きでしょ』という印象を読者側に刷り込ませていきます(熱弁早口)

 

人間誰しもそう言うところがあるものなので否定はしきれませんが、なんていうか…似たような部分を持っているからこそ、こう言うのって嫌な気持ちになるんでしょうね。

 

 

あっちなみに、当然ですが消防団員の好意と放火は無関係でしたからね。

それでも「勘違い恥ずかしい!」ってなるどころか「後輩に馬鹿にされる」「ついてない」って思ってしまう主人公スゲ…

 

 

 

 

2.贅肉(小池真理子さん)

なんかもうタイトルからやだ!笑

こちらはとある姉妹のお話です。

容姿端麗で色々な人に愛され、音大に進んだ姉。対して主人公である妹は姉の華々しさに比べると極々“普通”の女性でした。

子供の頃から周囲の大人たちは姉を褒め称え、妹にも気を使うようにようにお世辞の言葉をかけます。主人公である妹は、おまけのように褒められる惨めさよりも、自分には話題が回ってこないよう姉の影に入ることを選択して姉を立てながら幼少期を過ごします。子供とはいえ「あっ、今のはついでだ」の感覚ってわかりますものね。

 

ところが

 

時を経て立場は逆転。愛する母親の死をきっかけに姉は巨大化。無限にカロリーを吸い込むマシーンへと変貌します。そして人の前に出るのは妹の役割となり、姉は引きこもりになります。

 

初めは父と父の再婚相手が主力として姉を見守る係をしていましたが、まもなく不慮の事故により死亡。巨大な姉の飼育係(言い方)のお鉢はついに妹の元に回ってきます。

 

大好きな母と父・自分と懸命に共闘(ダイエットとも言う)してくれた再婚相手…

姉の心に空いた穴はついに3つに増えました。

 

やっぱりね、空いた穴はカロリーでしか埋まらないんですよ。 

お姉ちゃん、両親が死んでなお食べ続けます。

どこまでも成長。もう成長期終わったやで…?と途方に暮れる妹には脇目も振らず一心不乱に食べ続けます。なんならついでに退行までしちゃいます。ウェイト三桁の5歳児。本当にありえない…

 

今までは姉の影に隠れてばかりで、自分らしく人生を送ることができなかった妹。皮肉にも姉が引きこもることで陽の目を浴びることができたと思ったのに。そんなのは一瞬の夢で、結局は姉の世話で自分の幸せも手にできない。どうして。

 

そんな妹にも転機が訪れます。

 

5歳児メンタルの姉が、車の下の猫を覗いた状態で心不全様の症状を起こすのです。(それだけ体でかけりゃ心負荷やばいだろうよ)

妹はすぐに助けを呼ばず、姉を置いて薬を取りに家に帰る事を第一に選択。その間に、姉は体の上で動き出した車に轢かれて死んでしまったのです。

 

妹はこれについて「殺すつもりはなかった」と心中を吐露していますが、事実殺そうとだなんて思っていなかったのだと思います。

見苦しい、煩わしい、この人さえ居なければ!と思ってしまう反面、姉のことは本質的には嫌いにはなれなかったのだと。

ただ、ほんの少しだけ魔が差したというか…心の奥底にあったモノが彼女の行動の優先順位を差し替えたのだと思います。

 

 

ようやく解放された。最善の結果では無いにしろ、もうあの巨体の世話をする必要はないのだ。

姉の犠牲の上ではあるが、妹も妹の幸せを掴めるのだ…と読者が少しだけ安堵したのも束の間。

 

姉の死を真に願っていたわけでは無い妹の心には、当時の姉よろしく大きな穴がぽっかりと空いてしまいました。

 

 

そしてそれを埋めるのはやはり…

カロリーでしかなかったのですね。

 

 

カロリーって本当に罪深い(責任転嫁)

 

 

 

長くなったので、今日はここまでにします!

次回は沼田まほかるさんのエトワール以降についてです!