読子の本棚

読んだ本をここの本棚にしまっておきます。

9冊目:ナラタージュ 島本理生さん②

こんばんは、読子です。

①からずいぶん時間が経ちましたが、ようやくナラタージュ②感想編まで辿り着きました。あまりにもしんどくてえらく時間がかかってしまいました。

 

ボロボロ泣きながら読む私に

「こんな辛いのに頑張って読んでる…!俺なら読むのやめちゃうのに!」

ティッシュを差し出してくれる夫。おしりをフリフリしながら元気付けようとしてくれる姿に、よくわからない幸福感を噛み締めました。

 

 

さて本編に入ります。

本作、島本理生さんの「ナラタージュ」は、高校時代に世話になっていた教員の葉山先生と、演劇を通して出会った同世代の男の子である小野くんとの間で揺れ動く女の子のお話です。

 

2017年に映画化されているようで、

・高校教員(葉山先生):松潤さん

・同世代の男の子(小野くん):坂口健太郎さん

・ヒロイン:有村架純ちゃん

でキャスティングされています。有村架純ちゃんがとても好きなので映像化されたものも是非チェックしたいところです。近々観るぞー!

 

 

 

ここでネタバレ注意報!

以降では結構なネタバレも入ると思うので、未履修の方でネタバレが苦手な方はこの先をご覧にならない方がよさそうです。ご注意くださいませね。

 

 

 

↓ここからネタバレが入ります

 

ストーリー全編を通して「緩やかに搾取する(される)話だなあ」と感じました。あまり気持ちのよい表現ではありませんし、果たしてこの表現で正解なのかはわかりませんが、終始“人を想う気持ちが利用されている”という感覚が付き纏っていたので、今回はこの表現を用いて話を進めさせていただきますね。

 

作中では主人公が葉山先生から愛情の搾取をされ、小野くんが主人公から愛情の搾取をされています。同情を誘うようにしてゆるゆると。

 

奪うもの奪われるもの図式だと☟こうなるのですが

葉山先生→主人公→小野くん

 

愛情の図式だと

葉山先生⇆主人公⇆小野くん

☝︎となるのでややこしいですね。

 

「緩やかに搾取し搾取される物語」と言われるとそこに愛情は無さそうに感じますし、なんなら悪意さえあるように思えてしまいますが、この人間関係の中には悪意ある搾取は存在しません。上図のように葉山先生は主人公に対してきちんと好意を持っていますし、主人公もまた小野くんに好意を持っています。決して弄んでやろうというマインドではないのです。(ですので、完全な搾取とも言い切れなくて難しいです)

 

 

ですが、葉山先生は「妻と主人公どっちも大切」、主人公は「葉山先生と小野くんどっちも大切」と二人揃ってどっちつかず。

自分のことを強く想ってくれている人から愛情を貰っておきながら、感謝をしたり好意は見せても“自分にとっての絶対的一番”という相手が一番欲しているであろうものは与えません。

中途半端な好意は見せるけれど最後の最後まで決して相手のものにはならない、捨てないけど選ばない、そんな在り方をします。

 

道徳の目を持って見れば「狡猾か?」と一蹴されるべき案件ですが、何というかどこまでも人間臭いストーリーですよね…

「愛する存在の側で愛される存在になりたい」という願いがそうそう叶わないあたりリアリティ〜〜〜夢さえ見させてくれねえ〜〜〜という感じです。

 

 

 

ずっしり重厚なこの一冊を読んで、あなたはどの登場人物に一番共感をするでしょうか?

 

ちなみに私は、小野くんには今後きちんと幸せになって欲しい…!と願いつつ読んでいました。(ちなむな)

読む人が読めば「小野くんメンヘラでは…?」「合意のない性交はあり得なくない?」「彼氏の携帯チェックする彼女と変わらんやん?」と嫌悪の眼差しを向けられるような存在ではあると思うのですが、私は嫌いになりきれないんですよ、彼のこと。

 

主人公の葉山先生への好意を知った上で「他の人を好きなままでも良い」と言ってくれた小野くん。主人公はその好意に胡座をかき、本当の意味で小野くんと向き合うことをしませんでした

主人公はのちに「彼は最後まで自分の好意を信じてくれなかった。自分のせいだけれど。」と葉山先生に語りますが、そりゃそうだ?としか言えません。自分の一番の座にはずっと葉山先生を据えておいて「小野くんのこともちゃんと好きだ」と言われても、小野くんは虚無るしかないんですよ。主人公の何を信じりゃええんや…?

 

「小野くん自身が『他の人を好きなままでいい』って言ったんじゃん!」という声が聞こえてきそうですが、そりゃ彼だって人間です。ずっと愛情の壁打ちなんてしていて傷つかないわけがないのですよ、と擁護させてください。

小野くんの中に「好きな人の全てを受け止めたい」という気持ちが存在していたのは事実でありつつ、主人公がずっと葉山先生を想っている状態で辛くないわけが無い、というのもまた事実だったのです。

このコントロールしきれない不安や衝動に、小野くん自身も悩んでいたと思います。どうにか毅然として振る舞おうとしているけれど、堪えられるようなものではなかったのです。

とはいえ合意のない性交や他人の手紙を勝手に読む事が許されるわけではありません。が、一向に自分の方を向いてくれる気がしない主人公に対して不安を埋めたかったという小野くんの気持ちは痛いほど伝わってきました。

 

小野くんほどの愛情の壁打ちではなかったにしろ、主人公もまた最終的に葉山先生に選んでもらう事は叶いませんでした。そういう意味では主人公も小野くんも似たもの同士だったのだなあと思います。

 

「与える愛」という美しい言葉もありますが、やはり「与えるだけの愛」はそう簡単に永続するものでは無いのだと思います。そんなものはいずれ枯渇するのです

 

 

葉山先生に関しては、最後の最後までずるい人だったので好きにはなれませんでした。

ですが主人公が辛い時に先生がかけてくれた

「個人の状況を踏まえずに相対化した幸福にはなんの意味もない。」

という言葉はとても素敵だなと思いました。この一言で気持ちが楽になる人は沢山いるはずです。

 

それから

「大切なものを選んだ代わりに何かを切り捨てるなんて出来ない」というタイプだった葉山先生が、終盤で妻を選んだ(妻と再び一緒に暮らし、実母とは距離を置く)のは私としては納得のいく結末でした。

葉山先生のバックグラウンドにある「妻と実母がぶつかっている時に母の肩を持ち続けた結果、妻が壊れてしまった」という過去への後悔はきちんと回収されており、主人公との関係を経た上で葉山先生も変わったのだなと思いました。先生のこと、ちょっとだけ見直したかもしれません。ちょっとだけね。

 

 

思うところが多すぎて書ききれないのでそろそろ締めたいのですが、もはや締め方すらわかりません。

まだまだ言及したいことはたくさんありますが、既にいっぱいおしゃべりをしてしまったので強引ながらこの辺でお口を閉じることにします。

 

 

絶対映画も観るからな!

あばよ!!!

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