こんばんは、読子です。
こちらは島本理生さんの「夜はおしまい」の感想編です。
本作は神父・金井さんのもとを訪れる四人の女性の“性”を描いた短編集です。一人あたり一編、以下の全四編で構成されています。
- 夜のまっただなか
- サテライトの女たち
- 雪ト逃ゲル
- 静寂
こちらの②(3)では太字の3.雪ト逃ゲル、4.静寂について触れています。「夜はおしまい」についての記事は、これでおしまい、です。
今回の内容は“性について”“宗教について”と個人の価値観によりかなり捉え方が変わるテーマなので、アッ…って思った方はブラウザバックをお願いいたします。何卒ご容赦くださいませ🙇♀️💦
それでは内容に入ります。
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雪ト逃ゲル
このお話の主人公は、既婚女性です。一話目・二話目の主人公たちよりも、もう少しお姉さん。夫とお子さんが一人います。
主人公の女性は、家庭を持ちつつも会ったばかりの男性と関係を持ったり、自分の全てを受け入れてくれるような存在「K氏」とも深い関係を持ちます。
主人公自身も、家族がいるのに何故こんな事をしているのか?と訳もわからぬまま行為を繰り返します。特に彼女を悩ませるのは、K氏の向けてくれる好意に対して嫌悪感を抱き、彼を傷つけるような言動を選択してしまうこと。何故関係が深まるほど相手に対して嫌な態度をとってしまうのか…
こんなちぐはぐな行動をとってしまう理由を主人公自身がわかっていないので、読者側もずっと「気持ちがわからん」「?????」の心で彼女の人生の歩みを追いかけます。物語の折り返しあたりで彼女の苦悩の原因を明かされるのですが、いよいよもうどういう感情になっていいかわからない。(自己防衛の為の忘却により)すっぽり抜け落ちた記憶というだけあり、とても辛い過去です。同情もおかしいですし、実際に彼女と同じ立場にならなければ本当の意味での理解もできない。
彼女の行動の理由はわかりましたが、真の意味で彼女の苦悩をわかってあげることができなくて、読んでいて苦しくなります。まあそもそも「わかってあげたい」みたいな気持ちも、読者たる私のエゴなのですが…
件の過去が明らかになる場面では、彼女も例に漏れず神父金井さんの元で告解を行っています。告解を通して少しずつ彼女は自分の過去に近づいていく訳です。大丈夫、彼女には私がいなくとも神父金井がいる。
ちなみにご想像に難くないでしょうが、もちろんストーリーはスッキリとは片付きません。皆様に実際に読んでいただきたいので具体的には書きませんが、ちゃんとモヤモヤしたまま終わります。
が。
次のエピソード4.静寂にて、彼女が今までとは違う別の生き方に挑んでいる様子が少しばかり描かれているので、その辺りは救いかなと思います。
今度こそ幸せになってくれ。
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静寂
ラストの一話です。これまでのエピソードで、名前だけがチラチラと登場していた更紗さんのストーリー。カウンセラーの女性です。他人の生きづらさに耳を傾けながら、更紗さん自身も生きづらさを感じている描写に
そうだよねえ。カウンセラーさんだからって楽に生きられる訳では無くて、自分の人生と向き合って悩みながら生きてるんだよねえ。
と当たり前のことに気付かされます。どんな仕事をしているからといえ…どんな生き方をしているからといえ…決して悩んだり葛藤したりする事の無い人生は無いんだろうなあ、としみじみ。
ちなみにこのエピソードでは、悩める女性に光を与えてきた金井さん自身の生きづらさも明らかになります。もはや性別も関係ないですね。本当に、みんな大なり小なり悩みや辛い過去を抱えてますね。
とはいえこういった「みんな各々生きづらい」が描かれていても、着地地点は
「皆それぞれ辛いんだから、泣き言言わず頑張ろう」
ではありません。
(特にこの作品の女性たちは、)神父との告解を通し、辛かった過去は辛かった過去として受け止めて、時には対峙しすぎないという生き方の方向性を模索しながらも光明を見出していく姿を読者に見せる事で、「過去も含め、自分を否定せずに受け止める」という教示を与えてくれました。
本当に考えさせられる作品です。
全編通してとても繊細な描写で、湿度の高さが美しい(他で例えるなら江國香織さんのようなしっとり感でしょうか)作品でした。苦しくて悲しいのに綺麗なの素敵すぎる!
いつかまた、近いうちに島本理生さんの作品を読みたいです。