こんばんは、読子です。
ついに入院して1か月半が過ぎました。こんなに外の世界から隔離されることは無いので、正直元の世界に戻るのもめちゃめちゃ怖いです。(内と外とのギャップ)
まあ、退院まだ先なんですけれどね。
さて今回の本は
伊坂幸太郎さん「ホワイトラビット」です。
登場人物
【泥棒組】
- 黒澤:泥棒以外にも探偵業を兼任。割と何でも屋。犯行時には被害者が何が盗まれたのか不安にならないように「これを盗みました」的なお手紙を残す。
- 中村:レ・ミゼラブルを5年かけて読む。「黒澤さん、『ようするに』って言わないでください」
- 今村:まだ泥棒としてはお勉強中の身。黒澤の金庫破りの手技見学中に起きる「鼻息がうるさい(黒澤)」「金庫って鼻息するんですか(今村)」という掛け合い。たぶん天然。
【反社組織組】
- 稲葉:反社組織のトップ。人間として大事な感性が欠けている。折尾が見つかるまで、人質として確保している綿子ちゃんに暴行をはたらく。
- 折尾:通称オリオオリオ。オリオン座についてやけに詳しい男。反社組織でコンサルタント()をしている。
- 兎田:立てこもり事件の主犯…?妻の綿子ちゃんが誘拐されている。
【その他】
- 綿子ちゃん:兎田の奥さん。新婚さんの可愛い妻。稲葉に誘拐・暴行されるというとばっちり。
- 夏之目:悲しい過去を持つ男。警察。
あらすじ
「因幡の白兎」ならぬ「稲葉と白兎(兎田)」
事件と事件が絡み合うミステリー。反社組織による誘拐事件と、立てこもり事件が同時進行で起こります。
反社組織でお金の持ち逃げ事件が起き、トップの稲葉は部下である兎田の妻を誘拐し人質にします。妻の命と引き換えに、持ち逃げ事件に関与しているであろう折尾を探す兎田。一方その頃、泥棒組の中村・今村・黒澤はある家に泥棒に入ることを画策していたのですが…
感想
伊坂さんの作品は物語終盤の勢いのいい伏線回収が最大の楽しみなので、可能な限り本編の大事な部分には言及しないような感想を残そうと思います。
本作は「レ・ミゼラブル」の進行に則り、突然作者が現れてストーリーの進行に口を挟みます。もちろん伊坂さんらしい軽快なテイストで。
「レ・ミゼラブル」に関しては、作中を通して何度も登場しており本作を支える鍵となる作品のように扱われています。
さて森見登美彦作品の舞台がいつも京都府京大近辺であるように、伊坂幸太郎作品の舞台はいつだって宮城県仙台市。もちろん今回も例に漏れず舞台は仙台です。
仙台の地図に描かれるオリオン座。オリオンの星は一体何を示しているのでしょうか…?
始めは登場人物の多さに戸惑い、ついて行けるか不安でしたがそれも杞憂に終わりました。伊坂ワールド、安定の変なヤツの多さ。ちゃんとキャラクターを覚えられます。
その中でも私はおとぼけな今村・中村が好きで、特に中村がレ・ミゼラブルのジャン・ヴァルジャンを「ジャンさん」って呼ぶのが可愛らしくて好きでした。そもそも5年もかけて一所懸命レ・ミゼラブルを読むってエピソードがもう可愛いんですけどね。5年もかけたら初期の方のお話忘れんか…?
今村も、黒澤から泥棒の技術指導(実地)を受けて「アンコール!」と元気に要求してみたり(泥棒向いてないぞ)、すっとぼけた言動が目立ちます。
それから、凄く納得してしまったのは誘拐の対象についてのくだり。作中にて
誘拐する対象は、子供ではなく成人がほとんどだ。子供は天使だから、という理由ではない。大人は大人しくさせやすいからだ。利害を説き、説得することができる。論理的に説明をし、狭い部屋に閉じ込めておくにも管理がしやすい。
と言及されます。確かに誘拐といえば子供のイメージがありましたが、言われてみれば…
ジブリ映画「紅の豚」のマンマユート団の皆さんが、スイミングスクールの子供たちを人質として攫う場面がありましたね。
あれはもう完全に保育所状態
↑この賑やかな状態を思い出すと「それもそうか」と思ってしまいますね。この辺りを考慮すると、「大人の方が人質として管理しやすい」は正論だなあと思います。
他にも
(星の寿命や宇宙の話の流れで)
「轟々とすごい速さで流れていく時間の中で、そのほんの一瞬の間でわたしたちは生きて、一喜一憂したり、遊んだり、勉強したり、働いたり、恋愛したりするんでしょ。凝縮されているというか、充実しているというか。」
というセリフ、こういう人生のエッセンスみたいなセリフが軽い感じで突然現れるのが伊坂ワールドの醍醐味なんですよね。
自分の人生でこんなにも達観したようなことを口にする人間ってそうそう現れないので、さも普通の事のように大事なことを肩肘張ったムード無しに教えてくれる伊坂作品の登場人物には、いつだって心を揺さぶられます。
伊坂作品は久しぶりに手をつけましたが、作風が変わっていなくて安心しました。
まだ過去作の未読作品もあるので、またいつか手を出したいと思います。